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ハルエさんの受診【2008.01】

グループホーム第2 板垣 由紀子
 

 ハルエさん(仮名)は主治医から、認知症の進行からすればこの春には寝たきりが予想されると一昨年の夏に言われたのだが、その春を越えて次の春を迎えようと今も元気で歩き続けている。手が震えて箸が使えず、手づかみになってしまうことや、落ち着かず座ってゆっくり食べることができなかったり、他者とのコミュニケーションがいびつでトラブルになったりする事もあるのだが、料理を手でも食べられるおにぎりにしたり、他の人とは離れたテーブルで職員と1対1で食事したり、工夫をして、グループホームの中では何とかやっている。
 しかし、世間に出るとなるとなかなか勇気がいる。昨年、風邪で病院受診をしなければならなくなった時は、2人がかりで受診した。問診の医者にはかぶっていたタオルケットを投げつけ、待合室ではじっとしていることができず院内をグルグルと歩き回り、売店のミカンをわしづかみして一口かじって投げ捨てたりと大活躍だった。
 今年も熱が出て、病院受診になった。車の中で、このハルエさんの状況を受け入れてくれる医者や看護婦さんならいいなと願うような気持ちで向かう。今回は車いすで来たのだが ハルエさんも降りようとはしない。助っ人の理事長が、歩く代わりに車いすを走らせる。「わあ、押してくれるの?」とハルエさんも乗っていい調子。
 診察室に入ると、先生の対応も柔らかい。注射も「ちょっと痛けど、我慢出来る?」と聞くと負けず嫌いの(?)ハルエさん「大丈夫よ〜」。針が刺さる瞬間「いたァ〜いい〜」と叫んだがなんとか無事に乗り切る。次の難関はレントゲン、これも記念撮影とばかりに難なくクリアー。そのあと点滴になったが、起きあがろうとしたり、管を外してしまわないか心配したが、じっと横になり、隣に座る私に「大変だったでしょ、あんたも寝なが。」と声をかけてくれるほどで、2時間機嫌のいいまま点滴は終わった。
 この受診に自信を持って、11月末には、インフルエンザの予防接種を受けに出かけたのだが、やはり、混んでいる中待つのはきつい。さりげなく一緒に立って歩く。ぐるっと回って席に戻ると、しばらく会話が続き。待合室にとけ込む感じになり、 ハルエさんの笑い声に周りの視線が暖かくなるのを感じる。
 ともすると、世間の目の中で、しくじるとハルエさんを悪者にしてしまうことになる。待合室では、静かに座って待つものだろうが、ダメダメで制止に走るとたちまちハルエさんは、世間からは浮いた存在になり、困った人、世話の焼ける人になってしまう。歩き回ることに振り回されるのではなく、彼女の気持ちにより添えているといい空気ができあがって来ることがある。ここら辺りは難しいところで、わずかでもはずしてしまうと、さらし者にして、困った人、大変な人と同情と哀れみに見舞われてしまう。世間に出るときには、そういうことを自覚し、覚悟し、引き受けていく緊張感がいつもある。


 

 
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