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志と理念を持って福祉を推進する人たちへ その2【2010.09】

北海道当麻かたるべの森,ギャラリーかたるべプラス
施設長 横井 寿之

 思いがけず、銀河の里の米澤さんから、続きを書いて欲しいという依頼を受けた。
 そこで、前回「かたるべの森構想」について少し端折って書いたので、少し詳しくなぜかたるべの森構想を12年前に提案したか、振り返ってみたい。


 平成5年に、私は旭川から50キロほど北の人口5千人ほどの町剣淵(けんぶち)町という町で、日本で最初の50人全室個室の施設を設立した。寮舎の生活単位を12人から13人の家庭的なユニットにした。個室とユニットケアという考え方が老人ホームで提唱されるずっと以前のことである。この施設の建設費は作業棟1億、本体施設5億で約6億を要した。
 国費が2億4千万、剣淵町の債務負担が3億6千万であった。当時一般会計46億ほどの小さな町が、3億6千万円も負担するということも異例の事であったかも知れない。開設した平成5年には全国からの視察者が1700人に及んだ。知的障がい者施設で全室個室の施設と言うことがマスコミ等でも取り上げられ、反響を呼んだからである。
 しかし私はこの時、入所施設を作ろうなどとは全く思ってもいなかった。「もう入所施設はいらない」と公言してきたからである。その時、私は当時最も私の取り組みに理解のあった役場の福祉課長と、町の中にグループホームを5棟ほど建設し、20人規模の就労の場となる通所施設を作ろうと計画していた。通所施設では地元の農業者のトマトジュースなど農産物加工を仕事にしようとしていた。地域の農業者と一緒に町おこしにも取り組んでいて、「剣淵絵本の里作り」や無農薬農業を私たちが提唱して、「剣淵生命を育てる大地の会」を作り、無農薬農産物を1億円売るほどに発展させたりもした。そうした実績を通所施設の仕事にするという計画であった。町の中に、障がい者の町営住宅を建設し、そこから、通所施設に働きに行く、その計画は画期的でわくわくするものであった。真剣に取り組んでいた時、町長選挙があった。対立候補者が出たためか、現職の町長は期間中突然、「新たな50人の入所施設を作る」ということを言い出した。それは私も、福祉課長も全く知らないことであった。選挙が終わって、入所施設を建設に取り組むという町長の意向に私は絶対入所施設はやらないと頑張ったが、福祉課長の「町長が公約した以上、やらざるを得ない、我慢して受けてくれ」といわれて、私も諦めて条件を出した。それは全室個室の施設にすること、無農薬農業者の農産物を加工する施設を併設することをあげた。紆余曲折があったが、結果的にそれは受け入れられたが、町長はよほど面白くなかったらしく、開所式の挨拶で「私ははっきり言って、障がい者に個室とは贅沢だと思っている」と言った。 


 平成5年全室個室の北の杜舎が開所した日の打ち合わせで、「北の杜舎は全室個室という点では入所施設としては新しく、まだ役割があるかも知れない。しかし、10年先には入所という点で時代遅れとなるかもしれない。その時、この施設の入居者をどのように地域居住させて、入所施設としての役割を終えるか、10年先を考えて実践しよう」と挨拶した。そして5年後、「個室は贅沢だ」と言った町長が8期の再選を果たした。対立候補を応援した私は当然のことながら、この町を出なければならなくなる。しかし、そのこととは別に私は私の求めるものと、父母との間に大きな「意識のずれ」を感ずるようになる。私は入所希望の父母と面談したとき必ず次のように説明してきた。「今は、皆さんの地域に施設がないからとりあえず、私の施設の入居を受け入れます。しかし、いずれ必ず皆さんの地域にグループホームと作業所を作ります。その時は地元に戻るという条件で受け入れますがそれでいいですか?」と。そして、それに最初に応えてくれたのが当麻町の父母であった。まず、当麻町にグループホームと作業所を作ることにして、当麻町に出身者を移すことが実現することができた。それは私にとって地域福祉推進の第1歩であったと言ってもいい。しかし、その時、父母の会の役員さん達が私にその実践について異議を唱えに来た。「入居者を地域に返すことを始めたようだが、多くの父母は誰も地元に帰すことを臨んではいない。父母達は、やっと入所施設に入れたのだから施設から出すなんて考えないで欲しいと思っている」と。私は「父母のニーズと当事者の地域で暮らしたいというニーズとは相容れないものだとしたら、私は当事者のニーズに応えて仕事する」と応えたが、納得はしてもらえなかった。
 父母のニーズと、当事者を一人の人間として、地域で暮らすことができるように支援するという福祉の理念と、一致して目的に向かうことができるようになるには果たしていつのことか、そんなことをずっと引きずっている。  話しはちょっと横道にそれたが、当麻町での取り組みのいきさつはそうした事が背景にある。入所施設に依らない地域福祉の推進をかかげて、当麻町での取り組み始まった。
 そして、10年経って今、当麻かたるべの森は正念場を迎えつつある。(続く)


通所施設「ギャラリーかたるべプラス」外観

 

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