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捧げる踊り【2010.09】

グループホーム第2 佐々木 詩穂美
 

 グループホームの新しい入居者、守男さん(仮名)の初対面は緊張感ただようビシッと決まったスーツ姿だった。服をきっちりと着た姿は軍人さんのようにもみえた。それもそのはず、守男さんは戦争を生き抜いてきた人だった。「満州で戦ってきた菊池守男だ」「殺さなければ殺されてしまうところだ‥」と真剣な表情で私たちにも戦争に行った話を聞かせてくれる。戦争の話は聞いている私たちにも緊張感を与え、守男さんの表情をみているとなんだか切ない気持ちになる。 でもそんなイメージを反転させるのが守男さんの踊り。なにか特別なことがあるわけでもなく、ふと目が合ったときに「踊り踊れば♪」「ほれほれ♪」と手をとって踊ってくれる。いきなり始まるものだから、手をとって踊る私も、周りにいた人達もみんな最初は戸惑うが、みんなをいっきに笑わせてくれる魅力ある踊りだ。
 銀河の里の夏祭りが近づき、イベントに仮装輪踊りが入っていた。職員が仮装して踊り、なんと仮装優秀賞には豪華景品もついているという今年の輪踊り。輪踊りのリーダーになっていたので仮装するメンバーと共に練習を重ねた。練習最終日は守男さんも独自の踊りで最初から最後まで練習に参加してくれていた。やっぱり守男さんが入ると雰囲気変わってにぎやか。不安が大きかった私だが、守男さんがいれば大丈夫だと夏祭り当日の輪踊りが楽しみになってきた。 夏祭り当日、輪踊りが始まると輪の真ん中に浴衣姿でめいいっぱい踊る守男さんがいた。1人1人いろんな人の手をとって一緒に踊っていた。踊りに参加した人も、周りでみていた人もみんなを引きこんで笑顔にさせてくれていた。
 そして、大賞発表で仮装大賞の他に盆踊り大賞で守男さんの名前が呼ばれた。呼ばれた瞬間、さっきまで笑っていた表情とは一変し、涙が狭間みえる表情で席を立った。表彰の前に立つと、施設長が賞状を読み上げる間ずっと頭を深々と下げたままで表彰を受ける。その姿に、守男さんの力強い踊りはただ楽しくてやってきた踊りではなく、思い入れのある踊りなのだと思った。
 夏祭りが終わった後「家だけでなく、ここでも踊らねばなくなったな」と笑って話してくれた。 夏祭りの打ち上げは里の職員で倉本聰の『歸國(きこく)』の演劇を観にいった。その中で、戦争真っ只中の苦しいときにこそ踊る英霊の姿があり、「あの踊り!守男さん!?」舞台の上で踊る英霊の姿が守男さんと重なってみえた。
 戦争の深い傷の疼きを浄化し、癒すかのような守男さんの捧げる踊りにいつも引き寄せられる。


踊れや踊れ〜
 

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