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人間同士 どう想う(その1)【2010.09】

特養ユニット「こと」 酒井 隆太郎
 

 俺は、某、大手自動車メーカーに8年間勤務し、大きな喜びを貰い、多大な幸せを貰い、コテンパンにされボコボコにされて弱音を吐き、仲間を裏切って逃走した・・・・・・・。
 35歳の世帯持ちで綺麗な妻と(笑)可愛い二人の息子がいる人相の悪い、介護員面した、ひんまがった、ただのオッサンである。
 俺は、これまで人間の想いや、行動を全く理解できずにいたと思う。弱音を吐き逃走してきた自分は高齢者の想いや行動を果たして理解できるのだろうか、凄ましい介護の世界に、ひんまがった自分がやっていけるのだろうか?内臓がよじれるくらい悩んだ。
 しかし答えは、簡単だ・・・俺だ!!
 ひんまがっている俺を、修正しなければ!!
 他人の想いや行動を理解できずにいた俺を修正しよう!!
 俺は、介護員面した介護員だが・・・・逆に介護されようと・・・
 もう一度、人間同士のやりとりを、いちから見直そうと俺に言い聞かせた。
 俺は、どの位人間と関わったのだろう?いくら、ひんまがっていても俺にも確かな財産はある、それは、
 家族だ!! 親友だ!! 友達だ!! 心の友だ!! 先輩だ!! 同級生だ!! 後輩だ!! そうした男も女も全て俺の財産だ!!
 これだけは、金や物では絶対に手に入れることは出来ない俺の財産だ!!
 その、財産から応援を受け背中を押され、その気持ちを胸に何とかやってみようと、ひんまがった真っ暗闇の心に少しの光が差し込み、なんだか分からないが、どことなく気持ちが高ぶってきた。
 ある時、現場のユニットで81歳の男の先輩が俺の目の前に飛び込んで来た!!
 顔は、ガンとした面で、腕は太く背も高い、格闘技でもやっていたかのような感じだ・・・当然無口である。
 そんなある日、先輩はテレビに釘付けになって見ていた。近づいて見ると相撲を観戦しているじゃないか!!俺は、話しかけずに黙って背中をみていた。数日後、俺は柔道の全日本大会のチャンネルを選んだ。女性の利用者さんからは少々のブーイングだったが、俺と先輩の、何かが高ぶり人間同士の動きが始まった。先輩はまさに、テレビの占領、独裁政権のごとくかぶりついて観戦しているではあ〜りませんか!!俺は、小学生から格闘技が大好きで、ブルースリー、ジャッキーチェン、プロレス、総合格闘技、K−1、ボクシング、柔道、相撲、と格闘技オタクでございました。ついに導火線に火がついた。(一応、俺の本職は剣道なのですが・・・)思い切って先輩に話しかけてみた。
 「先輩さあ、柔道好きなのっか?」すると、先輩は
 「俺はよお、柔道、四段なんだ。」と言うではないか。俺のひんまがった真っ暗闇の心に少々の光が差し込みはじめた程度だったところへ、とたんにまるで雲一つ無い夕焼けの西日のようにガンガンと光が入り込んで来た。その後はまるで、悪ガキ同士が会話をするかのような感じで、決勝戦のどちらが勝つか語り合った。無口であった印象は爆弾で吹き飛ばされ、ただ格闘技が好きで進んでいく人間同士、親友同士になったかのようだった。
 数日後、先輩から俺に話しかけて来た・・・
 「プロレスよお、テレビでやらなくなったもんなあ」
 俺はあまりの衝撃の言葉に胸を撃たれ、その言葉が心臓に突き刺さった。俺は「んだあ、最近はやらなくなったけど、夜中にやってるじゃ」と即座に返した。先輩は、見たいのか?見たいに違いない。先輩は、「んだあ。」と  返事をして椅子に座りいつものごとく瞑想していた。
 俺のなかで答えが出た、先輩は、力道山世代だ!!間違い無いと確信した。戦後の荒れ果てた日本からそろそろ成長段階。テレビが売り出されプロレスの放映が始まった頃ブラウン管に映っていたのが力道山。まさに時代のヒーローだ。その、ヒーロー力道山を生み出したプロレス!!先輩は、だだの興味なのか本当にプロレスが好きなのか、どうしても探ってみたくなった。そして、本当にプロレスを観たいのなら是非一緒に行きたいと思った。
 これは、腐れ縁に感謝しよう。奴がいなかったら俺はここまで考えられなかっただろう、心に突き刺さるものは無かっただろう、奴の話しに感謝しよう、出会えた事に感謝しよう、人間同士に感謝しよう。俺は、二十年以上の人間同士で付き合っている、腐れ縁の親友を思い出したのだ。そいつは俺よりもプロレスオタクでプロレス博士だ。まさに俺は、そいつにプロレスを教わった。そいつが、小学生の頃お祖父さんに連れられて市民体育館にプロレスを観戦しに行った話しを覚えていた。その時プロレスにはまったと言っていた。そして、そこから心に刺さる何かを感じた・・・・
 奴は、盛岡の大通りに飲食店を開いている、ちょうど石の上にも三年の月日が過ぎたあたりだろう。当然のごとく苦労しているだろう。(盛岡に足を、お運びの方はどうぞお立ち寄り下さい。何卒、よろしくお願い致します。詳しくは、酒井まで。)
 数日後、プロレスリング・ノアと名乗る団体が、盛岡に来る情報を耳にした。チャンスだな、誘ってみるしかない。でも少々悩んだ、テレビで観戦したいようだったが、会場に行きたいなどとは一言も言ってないし、盛岡は遠い。試合の時間は6時くらいから9時くらいまでだ、帰って来ると間違いなく11時になる。悩んだ・・・
 とにかく伝えてみよう、あたって砕けろだじゃ!!聞きもしないで簡単に引き下がるわけにはいかない、もし駄目だったらそこから考えればいい、決して失敗じゃない、これが始まりなんだ。かなり強引に自分に言い聞かせ、ある朝、先輩のもとに行って俺はこう言った
 「先輩、今度盛岡にプロレス来るんだよお。もし良かったら一緒にいがねっか?」すると、先輩は少々眠そうな顔をこちらに向けてニヤリと笑ってこう言った
 「いいな、いぐ。」あっさり答えが出た、まさにその時、人間同士の気持ちが一致した、何も関係無い年齢や他のいろいろな事全て取りはらい、ただ二人がプロレスを好きだとゆうことだけで人間同士が深くなって行った。俺は興奮ぎみで先輩に話していた「んだぁ。んじゃ、観戦するんだったら後ろの席とか2階席とかじゃなくて、一番前の最前列で観戦するべしや。」すると、ニヤリと笑った顔がもうちょっと笑って返事をした、「んだってが。」
 俺は「特別リングサイドで観戦するのよ!!」とデカイ声で先輩に言った。
 早速、腐れ縁に電話した。チケット大至急取ってくれや!!後ろの席とかじゃねえぞ、特別リングサイドだじゃ!!すぐ、連絡よこしてけろ!!奴は快く引き受けてくれた。そして、チケットもすんなり用意できた。これも人間同士、二十年以上の絆があったからだ。奴には頭が上がらない、感謝のひと言しかない。(次号に続く)


酒井隆太郎ギターソロライブにて♪
演奏後、頂いたプレゼントを手に
 

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