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昌子さんとジブリ【2010.09】

ワークステージ 日向 菜採
 

 7月下旬、私は昌子さん(仮名)に誘われ、ジブリの新作映画『借りぐらしのアリエッティ』を二人で観に行った。昌子さんはジブリが大好きで、物語の主人公の成長や、その映画が描く世界観は、昌子さんに大きな影響を与えている。
 この日観た『借りぐらしのアリエッティ』は、ある古い屋敷の床下に住んでいる小人の少女・アリエッティが、その屋敷の少年・翔に姿を見られてしまうところからストーリーは始まる。「人間に見られてはいけない。見られたからには、引っ越さないといけない。」床下の小人たちの掟によって、アリエッティの家族は、新しい住まいを探さなければならなくなってしまう。責任を感じたアリエッティは、家族を守るために一人で人間の世界に飛び込んでいく。
 映画の中では、人間の世界と小人の世界の違いがはっきり表現されている。特に、小人から見る人間の世界、たとえば目の前に現れた巨大な白い建物は冷蔵庫だったり、人間にとって見れば足で踏まれてしまうほどの小さな野花が、小人にとってみれば花瓶に飾られるとても華やかなものだったりと、その物の大きさや尺度だけでなく、その物から感じる迫力や繊細さ、美しさなども違って伝わる。小人と人間の大きさを越えて、それぞれの世界と、いろんな感じ方があるはずなのだ。
 映画を観終わった後、昌子さんは満足そうな表情をしており、次の日からは毎日アリエッティの絵を何枚も描いて私にプレゼントしてくれた。この映画を通して、昌子さんの中にまた新しい世界が浮かびあがったことを感じ、その影響力の大きさに驚かされた。私自身、小さな頃から「天空の城ラピュタ」や「となりのトトロ」など観て育ってきたが、ジブリが描く物語に心を動かされるようになったのは、高校生になってからだった。ちょうど「大人」を意識し始めていた頃だ。ジブリの作品の主人公は、ほとんどが「少女」であり、その「少女」が新しい世界と出会い、いろんな葛藤もありながらも家族や仲間を守るために力強く立ち向かっていく姿が描かれている。その物語のなかで、主人公の「少女」は「女性」や「大人」へと変容をしていっているのかもしれない。そうだとしたら、昌子さんもきっとジブリの少女たちといっしょにその過程を踏んでいるにちがいない。
 宮崎駿監督はインタビューで「初期の頃の作品で描かれているヒロインでアニメーションを作りたいとは思わない。そのヒロインが持っているいちずな想いや強さは、だれでも持っていると思うようになったからだ。みんなそれを隠していたり出さなかったり、出したくてもどういうふうにだしていいのかわからないまま持っていて、それを冷笑したり否定したりして生きている。けれども、とにかくみんなそういう想いを持っている。」と語っている。 近頃、昌子さんはファッション雑誌を買ったり、女性のエチケットについて相談してきたりと、「昌子ちゃん」と呼ばれる雰囲気とはまったく違う姿を見せ始めている。昌子さんは、人に怯えて泣いていた数年前に比べ、たくましさや強さを感じさせる大人の女性に変わってきている。さらに自分の世界を持ち、その想いを自分なりの表現で発信するようになった。こうした昌子さんの前向きに生きていこうとする姿勢が、家族や仲間を支え、そしてまたそれらから支えられることで昌子さんが成長しているように感じる。
 

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