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発信・受容する大地 〜夏・北海道〜【2010.08】

ワークステージ 佐々木 哲哉
 

 10数年ぶりの、夏の北の大地。
 大学2年の夏、初めて一人で北海道をバイクで旅して、その日本離れした広大な風景、温かい地元の人々や風変わりでユニークな旅人達との「一期一会」の出会い‥‥など、非日常の開放感に完全にハマってしまい、以後3年連続で夏休みは北海道で過ごす「北海道病」の重症患者となった。「青春」を語るにはまだ早すぎるが(?!)、その1ページはまぎれもなく北海道を駆け巡った日々だった。北海道は僕を大きく変えてくれた場所だ。


 そんな思い入れ深い大地に今回、福祉というまなざしから注目されている拠点をいくつか訪ねることにした。そのひとつが日高山脈を越えた十勝の玄関先・新得町にある「共働学舎」である。ここは福祉施設ではないが、様々な障害をもったり社会になじめない人々、あるいは酪農や農業に携わりたい人が集まって共に生活をしながら、牛や豚を飼い畑で野菜を育て、チーズやクッキーなどの農産加工、とうもろこしの皮や野の花を使った工芸品づくり、新たな家や牛舎の建設などさまざまな仕事を分担して共に働き、互いに支えあいながら自労自活の生活を送っている。
 32年前に山の麓に町から30haの土地を無償で借りて入植し、水を沢から引き、古いプレハブ小屋や牛舎を自ら建てるところから始まった農場は、徐々に拡大しながら現在約70人のメンバーと120頭の牛、10数頭の豚、250羽の鶏、羊やうさぎ、馬や犬たちの世話をしながら主にチーズの製造販売に力を注ぎ、原料から一貫して作られたそのチーズはいまやモンドセレクションなど国際的な評価を得るまでになり、事業収入の柱となっている。


 福祉的側面やチーズの評判以前に、自給自足や物理学的見地に基づいた自然エネルギーの利用など先進的特徴があり、共同体での暮らしに興味があったので以前から知っていた有名な施設だったが、いつか訪ねたいとは思いつつ、実現していなかった。
 特に興味深いのは、1日の仕事や活動は朝食後の打ち合わせで各自が自らの意思でその日の行動を決めて任せられる、という本人の主体性を尊重する点だ。仕事をしても休んでも自由ということで本当に仕事や生活が成り立つのだろうか‥‥言葉や写真ではなく、実際の作業や生活の場に一緒に入らないと何も分からないはずだ。なので今回、わずかな時間の見学にためらいもあった。
 それでも実際に訪ねてみてよかった。施設に併設してある喫茶・販売、兼交流スペース「ミンタル(アイヌ語で“人の行き交う場所・広場”)」で応対してくれた加藤氏の柔和な表情、彩りと香り豊かなチーズやデザート・珈琲、玄関前で黙々と草取りに汗していた青年、帰る寸前に「儲けを先に考えたらダメだ」「敷地にテント張ってもいいよ」と快活に話してくれた代表の宮島望・京子夫妻、今日から農場体験に来たというモデルのような女性、壁に張られた写真でみるメンバー達の表情・作業の様子‥‥ほんの一瞬を垣間見た程度でも、それはささやかな刺激や発見、そして自分のやってきた仕事やメンバーとの接し方が「これでいいのだろうか」という見直しのきっかけやヒントを与えてくれる。また行きたい、もっと知りたいと思った。


 翌日訪ねた「かたるべの森」でも芸術的創造に刺激を受け、久しぶりに再会した友人の夫も福祉施設を立ち上げていて話は夜遅くまで尽きず‥‥と、北海道からこれまでとはまた異なるかたちでエネルギーをもらった。また初日に、以前自転車で旅をしたときに4日間もお世話になったライダーハウス(家主の善意で部屋を無料〜低額で開放してくれる、寝袋持参の簡易宿泊所)に立ち寄ると、宿は閉じてしまったものの併設する食堂のお姉さん(もうお母さん)が僕を覚えていてくれたことも無性に嬉しかった。
 アイヌの人々にとって大事な沙流川(さるがわ)のダム開発を巡って当時揺れていた場所だったからか、初めて会う宿泊者同士で民族問題や環境問題といったマジメな話にまで及んだことが強く印象に残っている。そこで出会った大阪出身の友人は、アイヌの探求からやがて沖縄に理想の地を求め、今は那覇で木工作家の地元主人とともにガラス工芸に励んでいる。
 僕自身もその後“観光”から、やがて田舎暮らし・自然回帰の願望とともに「自分は何を誇りに生きたいのか」というアイデンティティの模索・内面的な“旅”へと変化していき、今に至っている。


 時には思い切って羽を伸ばして少し遠くへ旅をすると、思ってもいない何かが得られる。いのちの洗濯もできる。様々なきっかけを与えてくれた北海道の雄大さに、あらためて感謝したい気持ちになった。先日観賞した舞台「歸國(きこく)」も倉本聰の率いる「富良野グループ」による上演で、強く心打たれるものがあった。
 北海道から発信されるものは大きく、深いと感じるのは僕だけだろうか‥‥。


曇り空と広大な小麦畑



ミンタル外観



宿舎外観




10数年ぶりの北の大地

 

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