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今年の新人研修【2010.07】

理事長 宮沢健
 

 昨年は特養が開設になるというので、30名を採用し1ヶ月をかけて新人研修をおこなった。ところが1年過ぎてみれば、大半が辞めてしまって、当時研修を受けた人は数人しか残っていない現状だ。確かに福祉施設の定着率は悪く、だいたいこんなところだろうとは思うが、それにしても研修の労力と費用を考えるとなんと無為なことをやっているのかと落ち込んでしまう。立ち上げ一年目はまさに激闘で、無我夢中のうちに過ぎ去ったのだが、まだまだ立ち上げ途中で完成率20%といった程度だろう。
 そうはいうものの、2年目は、昨年とは全く違った様相で展開しているのも間違いない。若いスタッフや新しい人材が増え、経験や技術はないながら、どこか息吹が感じられる。まだまだ、あちこちでぬけぬけでぼろぼろではあっても、未来へのいい感じが予感できる空気がはっきりと出始めている。
 今年も研修をしたいのだが、24時間体制、年中無休の現場を動かしながらその合間にやるしかないので、昨年のように全員まとまった形での開催は半永久的に望めない。何人かずつ順次時間をかけて研修をするしかない。どうせなら座学ではなく、出かけて見聞を広めながらやりたいということで、今年の研修第一弾は、東京でちょうど上演されていた、ドイツの舞踏団ピナバウシュの「私と踊って」を見に行くことにした。
 ピナバウシュ舞踏団が2年前に来日上演したときNHKの川村さんからチケットをいただいたのがきっかけで、「パルレモ、パルレモ」を職員が見たのだが、なんともいえない不思議な感覚がわき起こってくる感じだと言うので、急遽二部構成で上演された、後半の「フルムーン」を私も見に行った。パルレモは徹底的な破壊、破壊で「もうやめて」と叫びたくなるという職員の感想だったが、フルムーンはその名の通りエロスの神髄という感じで、滝が落ちるような大量の水の流れる舞台で、ダンスが展開され命の湧き出る感じが伝わってくる、見る者の心を直接揺るがすような表現に度肝を抜かれた。
 ピナバウシュという人は、現代社会において失われた人間の命の全体性を取り戻そうという戦いをやってきたのだと感じた。我々が現場の使命と感じていることと同じ仕事に挑戦している同志にちがいないと思った。そしてこのとき、最後列の席だったのだが、なんと隣の席にピナ本人とその付き人が座ったのだった。私の隣に付き人でその向こうがピナ。姿勢のいい背の高い女性が厳しい目で睨むように舞台を見ていた。鋭い迫力があった。
 残念ながらピナは昨年亡くなり、今回の来日は追悼公演でもあった。ただ本人がこの「私と踊って」の日本上演を決めたとのことだった。ドイツでの初演は77年というから、ほとんど初期の作品ということで、ピナ本人の思い入れもあったのではなかろうか。
 研修は2日に別れて、計12名が参加したのだが、それぞれ深い心の揺らしにあっているという感じだった。最初から涙がでて最後まで泣きっぱなしだった人や、目眩を感じながら、見終わったその日は口をきけなかった人など様々だが強い反応だった。
 システム化された社会で制度に絡みとられ、便利で快適な日常を過ごしながら実感を失って、感情と知性との交流が断絶した失感情や、身体感覚と知性の交流が途絶えた失体感、自然への感覚、感性が鈍磨する失自然といった症状を乗り越えるべく、舞踏の世界で挑戦し実践したのがピナの活動だったように感じる。私の個人的な勝手な思いながら、ここにも同志はいたと思うとまた勇気が湧いてくる。ピナを見た、若い職員スタッフもそれぞれ大事な何かを感じてくれたように思う。

 

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