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農業を通じて引き継ぐもの【2010.06】

ワークステージ 米澤 充
 

 長年、米澤家の稲作とリンゴ栽培を担ってきた祖父が、昨年の10月に体調を崩し、それから母と私が農作業をやることになった。リンゴ作業に関してはワークステージのワーカーの協力もあり何とかやってこれたのだが、問題は祖父にまかせっきりであった稲作だ。稲作をやめリンゴ栽培のみにシフトする考えもあったが、一町歩(3000坪)以上の田んぼを作らないのは、祖父が何十年も守ってきたものを簡単に捨ててしまうような気がして、家族で相談し、やれるところまで挑戦する事に決めた。苗作りや水管理は母親が行い、耕起や代掻き(しろかき)といった機械作業は私が担当する事になった。
 まずはトラクターによる耕起作業の準備に、ロータリー作業機を接続しようとしたがそこですでにつまずいた。祖父が教えてくれたようにやるのだが、結局接続する事ができず、業者を呼んで取り付けてもらった。
 生まれて初めての田起こしに、いくらかワクワクしながらトラクターで田に入ってみたまではよかったが、どう回ったら効率的なのか、掘る深さは適切か、などといった悩みが頭をめぐり、初日は練習で終わってしまった。スタッフ哲哉さんに教えてもらいながら、田起こし週間が始まった。なんとか田起こしが終わり、次は田んぼに水を張ってから行う代掻きの作業が続くのだが、やはり代掻き用のロータリーの取り付けに難儀し、これも自分ではできず業者に取り付けてもらうはめになった。
 田起こしや代掻きの作業をしながら、こうした作業を、祖父が70歳過ぎまで主となってやってきた事実に今更ながら驚いてしまった。やせ細った祖父がとても大きな存在であることをしみじみと感じながらの作業だった。


 素人の私が本格的に稲作に関わってみて、現代農業イコール機械化農業であると感じた。もちろん機械化によって稲作体系が大幅に変わり、作業効率が上がった点についてはとても素晴らしい事だと思う。私が農業を引き継ぐにあたり、苦戦したのは機械の取付や操作であり、祖父からのアドバイスも「トラクターの速度はエンジン回転数3000回転が目安」「代掻きは2回やらなければならない」といった機械操作や作業方法といった話が多かった。
 ただ、作業が機械中心になっている事で、祖父とのやり取りも機械中心になっていて、農業の奥にある何か大切なものを伝えられていないような物足りなさを感じた。
 祖父はどういった思いでリンゴと稲作の両方を続けてきたのか、代々引き継がれて残っている田はどんな経緯(制度や部落内の事情など)があったのか、整備される以前の田はどれほど大変だったのか、知りたい事、聞きそびれている事がたくさんあったと思う。


 今後農業を次世代に引き継いでいくためには、機械操作や作業方法を教えるだけではなく、親から子、子から孫へ引き継いでいかなければならない大切なものがあると思う。その大切なものは何なのかは各々で異なると思うけれど、農業を残さなければならないと思わせる、心を動かす“思い”だと私は考えている。


 米澤家の田植えは5月24、25日の2日に渡って行い、絶好の田植え日和の中、銀河の里のスタッフやワーカーの協力のおかげで無事に終えられた。
 田植えの終了を報告した25日の深夜に、祖父は容態が急変し他界した。まるで田植え終了の報告を待って逝ったかのようなタイミングだった。
 リンゴと稲作の作業を一通り引き継いだ事を安心してくれただろうか。今となっては祖父の思いや考えは聞く事ができないけれど、田んぼやりんご畑での作業を通じて、人生の多くのことが感じとれるような人間に成長していきたい。
 祖父が昨年入院した際に、手を握りながら私に語ってくれた「充君、頼んだよ」という一言が今でも忘れられない。8月に生まれてくる子供にも農業を通じて、大きな存在だった祖父の事や、大切なものを引き継いで伝えて行けたらと思う。


祖父の遺志を継いで
 

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