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日常的なコメ、非日常的な稲作 〜一体感を求めて〜【2010.06】

ワークステージ 佐々木 哲哉
 

 5月最終日、雨続きで寒かった天候がやっと晴れた。延期となっていたもち米の手植えがやっとできた。 昨年は1枚の田んぼの半分を田植機で植えて残りを手植えしたのだが、作業に慣れている畑班の若手メンバーや昔からやってきた田んぼ作業が体に染みついている司さんや運一さん達が一足先に植え始めるとあっという間に進んでしまい、さらに手植えが慣れている高齢者の桃子さん(仮名)やクミさん(仮名)達が後から加わると、みんなが手植えできるスペースがほとんどなくなってしまいそうな勢いのために手を休めざるを得なかった。ただの“イベント”にしてしまうと、正直物足りなく感じた。手植えは職員と利用者が関係をより深める場であり、また新人職員にとって高齢者や他部署のメンバーとの交流の場でもあるはず。どうせなら、少なくとも田んぼのなかに入って作業できる何人かは本気でやったほうが活気に湧いておもしろいんじゃないかと思い、今年は一枚全部を手植えすることにした。


 いったん水を抜いた田んぼにタテ・ヨコと線を引く。できた交点に、苗箱からちぎった稲を手にとり植えていく。畦から距離が離れてくると補給用の苗を畦や法面から投げてもらうのだが、その際にコントロールミスしたり泥が一緒に飛んだりしてどっと笑いが起きる。僕自身も線を引き終わって後方からみんなを追いかけるように手植えを始め、けっこうペースを速めて植え進み、毎年欠かさず田んぼのなかに入るクミさんにやっとこさ追いついた。その途端クミさんの闘志に火をつけてしまったようだ!追いつく前とは明らかに違うスピードでクミさんの手先が高速回転を始め、もの凄いペースで進んでいく。僕も負けじとムキになった。周りから「さぁゴールまであとわずか!」と歓声が入る。ニューフェイスの若い男性職員も泥んこで笑いを誘って賑やかだった。 田んぼは「おコメ」を作る場であり、田舎ではどこにでもある見慣れた光景だけど、農作業の現場や収穫のあとの精米の過程などは知らない人が多いのではないだろうか。
 銀河の里が掲げる「農業を基軸に」とは何か?田植機に乗って田植えの真っ最中に電話がかかってきて「お米30kgお願いします」と特養のユニットから注文が入ったりする。どうやったら里全体で農業に対して一体感を持てるか、“消費者”ではなく“当事者”になってもらえるか、色々考えてやっていきたいと思う。


 「お金さえ払えば、食料は外の世界から入ってくる。けれども何かが違う。変わりゆく暮らしの中でどうしても守らなければならないもの。自分たちが誰なのかを教え続けてくれるもの。クジラ漁とは、エスキモーの人々にとって、何かそんなもののような気がする」
 「クジラの上に上がり、黙々と作業を進める若いエスキモーたちに、時々年寄りが指示を与えている。いい風景だった。 老人がどこかで力を持つ社会とは、健康な世界かもしれないと思った。何よりも若者たちの顔が輝いていた」     星野道夫 著作より引用


ゴールまであとわずか!
 

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