「あの中で俺の(息子)が一番いい体つきしてだんでねが?」と言う武雄さん(仮名)。特養の交流ホールの外庭に、着々と竹が植えられていく様子を見守っていた。その仕事を手掛けているのは造園業をなさっている武雄さんの息子さんと職人達だった。
確かに息子さんはお父さんの体つきに似て、がっしりとした背中だった。息子さんに対しての自慢気な雰囲気や、誇る気持ちを素直に表現しながら、もちろん仕事には口出ししたりすることをせず、ずっと静かに、でも嬉しそうに見守っている姿はなかなか素敵だった。
私はそんな武雄さんの姿を見ながら『継ぐ』『託す』という局面を、しみじみと味わっているのだろうな…などと思っていたのだが、武雄さんからは意外な言葉が。「あそこの廃材から良い木もらっていいのか?」(お?!何か作る気??)「箸でも作るがど思ってよ」(やっぱり!!)。息子さんの働く姿に触発されて、また何か新たに作ろうと思っている武雄さんの姿に、私もうれしくなった。
冬の間、武雄さんは落ち込んだ日々を過ごし、自分から何らかの意欲を持って生きるという姿をほとんど失くしてしまっていた。そこへ、息子さんの存在によってまた何かが吹きこまれたようだった。
二人は父と息子でありながら、師匠と弟子みたいでもあり、同志、ライバルみたいなところもあるのかもしれない。それから毎日、思考錯誤しながら武雄さんが箸づくりをしている姿を見るたびに、その心には息子さんのことがあるのだな…といつも感じるのだ。
花巻のような寒い気候では、孟宗竹は育ちにくいというのだが、植えられた竹たちが、みんなの気持ちを受けて、ぐんぐん育って筍を生やし、いつか竹林になることを心から願う。
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