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特養に雛壇がやってきた!【2010.05】

特養 中屋 なつき
 

 あまのがわ通信にて「特養にも雛壇がほしい」と呼びかけたところ、さっそく寄付してくださるという声が届いた。里の利用者だった伸一さん(仮名)だ。以前から銀河の里の通信を毎回熟読してくださり感想まで伝えてくれる方である。
 申し出をありがたく受け、ご自宅まで品物を受け取りに行く。「家では飾ってあげられないから、見てくれる人がいるところにもらわれるんなら、人形も喜ぶでしょう」とお嫁さん。伸一さんは「飾り方を職員さんに詳しく伝授したい」と、特養に来所することとなる。
 雛人形の入った大きな木箱ふたつ、先に特養にやってきて、強烈なショウノウの香りを放っている…。好奇心でちょっとフタを開けてみたが、包装に使われている新聞紙も「らいおん歯磨き」の小箱も、かなりの年月を思わせる。伸一さんが来るまでは、とてもそれは開けられない迫力を感じてしまう。


 約束の日…、「こーん・にっち・わぁー!」と手を振り振り元気よく玄関をくぐって伸一さん登場!「おーひ・さっし・ぶーり・でっすねぇー! あはははぁー」シルバーカーを押す歩調も軽やかに、生き生きした表情。人形の置いてある交流ホールへ直行の伸一さん。
 ちょうど伸一さんの奥さんのサエさん(仮名)もショートステイ中だったので呼んでくる。「しばらくだったなぁ」と伸一さん。久方ぶりの夫婦ご対面に、「なんだかお二人が御内裏様とお雛様みたいですね」とみんなが言う。すると「こんなこと、してか?!」と言いながらサエさんに寄り添う伸一さん、照れておどけるサエさんの肘鉄が伸一さんの顔面にヒット!
 かくして、ショウノウの匂いムンムンの、賑やかなる雛壇飾りがスタート! すでに伸一さんのテンションは上がりまくり、見物に集まってきた人々に向けて大きな声で張り切っている。「まぁずは、壇を組み立てるんだぁ!」すかさず事務の瀬川さんが、付き添いで来た職員さんと共に木製の壇を組み立て始める。「埃だらけだ、まぁず、雑巾もって来ぉい!」サエさんも手伝って、板の埃を拭いていく。その一方では、いよいよもって人形の木箱が開けられ、ぞくぞくと、出てくる出てくる人形の数々! お雛様と一緒に五月人形や鯉のぼりも入っている。 作りの細やかな人形のひとつひとつを、見物に来ていた利用者さんたちに手渡す。五人囃子の笛吹を無言でじっくり見つめるハナさん(仮名)、「それ、じいさん」と右大臣に話しかける弥生さん(仮名)、御内裏様に「あや、ずいぶん立派だね」とトミさん(仮名)…。
 よく見ると「ん? これ、お雛様も五月人形も関係ないんじゃね?」という物もたくさんある。狸やらロボットやら、グリコのオマケみたいなのまである。それが全部、たいそうな年期の入った品々だもんだから、スタッフも一緒になって「すごーい!」「何これー?!」と、まるでタイムカプセルのおもちゃ箱をひっくり返したような騒ぎとなる。役によって刀やら楽器やら持たせる小物も違っているし、お膳やら鏡台やらの嫁入り道具のひとつひとつに、おままごとをやった頃の気分が蘇って、ウキウキした心持ちになる。 突然、「わあぁーーーーっ!!」と伸一さんが叫ぶ。テンションの最高潮に達したのか、ぐやぐやづい一団にやきもきしたのか、「いいから、早く出せ! ぜぇーんぶ、出してしまえぇーっ!!」と、顔を真っ赤にして怒鳴った。一瞬、シーン…となるホール。ワイワイ楽しくやってたのが興醒めか…と少し心配になったが、次の瞬間に「はいはい、出しましょう♪」とサエさんの一声でみんな作業再開。そうだね、まずは壇の上に並べよう、でないと伸一さんの気持ちがおさまらない。
 伸一さんの隣に座る。見れば、興奮のあまりにどこかにぶつけたのか、手の甲の皮膚が少し裂けて血が出ている。カットバンを貼りながら話を聞く。「若い職員のみなさんが、来年も再来年も同じように飾ることができるように、きちんと教えなくてはならない。そう思って私は今日ここに来ました。しかし、あっちもこっちも、みなさん勝手にやっていらっしゃる。私はもう帰った方がいいですか?」一喝の後のテンションが、今度はグンと下がって、首までうなだれてしまう伸一さん。いやいや、申し訳なかった、ぜひともこだわりの飾り方というのを伝授していただこう。
 やや幅広の壇飾り、向かって左側がお雛様の嫁入りの一団、右側が武士や金太郎などの五月人形の一団。下の方には花咲爺さんや舌切り雀などの物語人形も混じっている。今までに見たこともない一風変わった雛壇が全貌を見せたのは、作業開始から2時間後。その頃には見物の人たちもユニットへ戻ってしまっていたが、ひと息いれてコーヒーを飲みながら雛壇を眺める。伸一さんサエさん夫婦と、帰り際に立ち寄ったワークステージの女の子たちも一緒に記念撮影。カメラを持参した伸一さんは、途中で戸來くんとカメラマン交代、「人形が見えないなぁ、みんなちょっとかがんで」と構図にもこだわって、自分で撮影しご満悦、最初の笑顔に戻ってくれている。「また来年も、再来年も、ずっと飾ってあげてください。みなさんで楽しんでいただければ、寄付した心も喜びます」と満足気でにこやかに話し、「元気でな」とサエさんに声をかけ、職員さんと一緒に施設へ帰っていった。


 サエさんもショートステイを終えて自宅へ。お嫁さんにさっき撮ったばかりの写真を見せながら、お礼と、飾ったときのあれこれを玄関先で報告していると、奥の部屋からサエさんが仏壇に手を合わせる音が聞こえてくる。「ちょっと上がってって」とお嫁さん。「いつもはあんまり仏壇に向かうこともないんだけど…」と私にささやいて、「お線香やってくれたの? ありがとう、おばあちゃん」とサエさんに声をかける。見ると、先日亡くなったという伸一さんの妹さんの遺影がある。「この人が小さい頃に遊んだお雛様なのよ」とのこと。偶然にもその妹さんにも直接お礼を伝えることができた。
 春を心待ちにし、子供の成長を願う気持ちの込められた、一風変わったお雛様と五月人形。里の新人スタッフの成長祈願もかけて、特養の交流ホールで日々を見守ってくれている。利用者やスタッフはもちろん、訪れるお客さんの目も楽しませてくれている。花見シーズンが終わった頃、またみんなで集まって、大切に片付けようと思う。来年、また飾る頃には、今よりまた一年分の成長と想いを胸にしていることを願って。


雛人形を飾り中



雛壇の前で
 

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