トップページ > あまのがわ通信 > 華の月曜日


華の月曜日【2010.05】

デイサービス 藤井 覚子
 

 デイサービスは曜日によって来る人が異なるので、曜日ごとに独特の雰囲気がある。特に月曜日は個性的?な方が多く、動きのある曜日で、私もキュッと気合が入る。「動きがあると大変」と思う気持ちがあるからなのだろう。「今日は何が起こるかな?」とワクワクする気持ちと不安な気持ちと両方持ちながら、送迎から戻ると、ホールはすでに何やら動きが始まっている。バイタル測定に「やめろってば!」と壮一さん(仮名)の大きな声がホールに響く。剛さん(仮名)はいつもの日課で「これやるぞ〜」「風呂まだか〜」と叫ぶと声に対して、サエさん(仮名)が「ベロベロ言ってないでちゃんと話して下さい」と反応する。みんなの大きな声にホール内は大騒ぎの感じになる。剛さんは毎日の日課をこなしているだけなのだがサエさんはそれに対し言って聞かせたくなる。サエさんの勢いにはスタッフも押されぎみで、 気分を変えようとサエさんをおやつ作りに誘うが、段取りが悪かったりすると「先にたつ人が分からないから、何をしたらいいかわかりません!」とピシャリと言われてスタッフもたじろいでしまう。活動の方に目を向けたくてもサエさんのアンテナは周囲を全てキャッチし、一つ一つに反応していく。この騒ぎをなんとか治めたくなるが、治めようとすればするほどことが大きくなっていき「うるさい」と厳しい視線がサエさんに向けられる。
 「さてまいったな」と困っていると、勇治さん(仮名)が「ずいぶんとふくしい人だ」とニコッと笑って語る。「うるさい!」と言わずに「ふくしい」(よくしゃべる)という方言と笑顔が場がフワッと和げる。そこには勇治さんらしい周囲を気遣う優しさが含まれている。「話はおもしぇぐ、屁は臭く」と場を笑わせる勇治さん。そのユーモアで、張り詰めたホールの雰囲気が一変する。
 昼食後、いつもはソファで過ごす五郎さん(仮名)が玄関の方を指差し「歩いて行きます」とそのまま外へ出て行く。スタッフが声をかけても頑なで「帰ります」とそのまま歩いて行ってしまう。しばらくスタッフと歩いてもらって車で迎えに行き戻ってくる。すると今度は修さん(仮名)が特養へ行くと帽子をかぶり外へ出てしまう。午後になると帰りたい気持ちが強くなる勇治さんも「さ、息子さ電話してけで、帰るから」と動きはじめる。皆が一斉に動きだすので、「どうしよう・・・」と慌てていると考える暇もなく歩いていってしまう。それぞれ思いがあっての動きなので制止はきかない。
 スタッフが代わり新体制がスタートしたばかりのデイでは、利用者の大きな動きがあるとついその言動に飲み込まれてバタバタしてしまいがちだが、動きがあるからこそ、その人の気持ちが読み取れる。そうした動きに動揺したり、制止ばかりに気をとられずに動きを繊細に見つめて寄り添って行きたい。
 デイホールが騒がしくなっている最中、修さんが立ち上がり玄関に向かった。うるさいのがイヤで一人で歩いていってしまうのかなと見ていると、立ち止まって外の景色を眺めている。「特養にいくの?」と声をかけると「今、いげねべ、ここさいる」とホールの様子を察して、今はスタッフが一緒に行けない状況を分かっていてくれた。私の方が自分の業務中心に修さんを見ていたかもしれないと感じた。
 先日もホールでバタバタと色んな動きがあるなか、サエさんとパン作りをした。ホールを見ながらなので、サエさんのペースに引きずられあたふたした。発酵準備に時間がかかり、膨らまないかなと心配だったが、結果はプフッと今までで一番上手に膨らんだ。サエさんも「あら〜」と嬉しそうな表情で「ぱん、ぱん、ぱ〜ん」と言いながら踊って喜びを表現してくれた。私も嬉しくなり一緒に踊った。一緒に作って、気持ちが通う瞬間は本当に喜びを感じる。
 それぞれの人がそれぞれの世界を持って集まってくるデイサービス。騒がしいのは当たり前。表面の動きの激しさだけに翻弄されず、気持ちの動きを繊細に感じつつ、そうした1人1人の動きや変化を楽しめるような感覚をもって関わっていけたら、もっと鮮やかな賑わいが増し、華の月曜日になっていくにちがいない。  
 

あまのがわ通信一覧に戻る

このページの上部へ


〒025-0013 岩手県花巻市幸田4−116−1
TEL:0198-32-1788 FAX:0198-32-1757
HP:http://www.ginganosato.com/
E-mail:l: