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本当の出会い【2010.04】

特養ユニット「すばる」 村上 ほなみ
 

 私は去年、特養のすばるから半年程GH1に移り、10月にまたすばるへ戻ってきた。帰って来たとき、移る前のすばるとはガラッと変わったスタッフと雰囲気に少し戸惑っていた。そんな私に視線を送っている利用者さんがいた。目が大きくて可愛い感じで、目が合っただけで救われたような気がした。すぐに隣に行き声を掛けた。私はそのおばあちゃんから返事が返ってくるのだと思っていたのだが、後ろから「あっ、クニエさん(仮名)って言うんだよ」と畠山さんが教えてくれた。恥ずかしそうな顔をして頷くクニエさんがとっても愛おしい感じがして私は思わず抱きしめた。その瞬間、クニエさんの表情は一気に曇ったかと思いきや、いきなりパンチが飛んできた。唖然としながら、クニエさんの表情を見て、やってはいけないことをやってしまったのだと感じてショックだった。クニエさんにはそうやって入ってはいけないのだと解った。
 その日からしばらく、私は介助でしかクニエさんと関わることができなかった。食事介助に入っても全く笑ってもらえず、気まずい時間だけが過ぎる。私はクニエさんにとって“ご飯を食べさせてくれる人”でしかなかっただろう。そんな関係が何週間も続き、私もだんだんしんどくなって来ていた。でも人をしっかり感じるクニエさんだからこそ、いつかきっと1対1でいい時間が来るはずだと信じて、その時を待つしかなかった。
 その時が来たのは思いもよらないような些細なことだった。センさん(仮名)の食事介助をしていた私の隣にクニエさんがいた。私は隣にクニエさんがいることを、さほど意識していなかったのだが、クニエさんのほうから、あまり食欲がないセンさんの介助につまずく私の腕を“がんばれ”と言うかのようにスプーンでツンツンしてきた。私は驚きながら、嬉しかった。照れているような…恥ずかしそうな…そんな顔をして見つめてくるクニエさんはやっぱり可愛くて抱きしめたくなったが、遠慮して顔をスリスリするのが精一杯だった。でも、心はスカッとした。このとき以来、私とクニエさんとの距離は近くなって行き、今では遊びで関わることもできるようになった。
 先日、おやつを誘いに居室に行った時、「一緒に寝よう」とクニエさんの上に乗ってみた。「おもい〜」と言われ2人で笑った。ベッドに横になり、いろんな話をした。言葉で返ってこないことも多いが、伝わるものがある。表情だったり、動作だったり。話すことが苦手な私はそんなクニエさんに助けられる。
 居室を出ようとした時「ん〜」と言うクニエさん。「寂しいの?もう少し居る?」と聞くと頷き目を閉じる。初めてみる素直なクニエさんだった。きっともっと関わりたい人なんだろうな〜。これからももっとクニエさんの本当の顔を見させてもらいたい。
 

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