トップページ > あまのがわ通信 > 深みにはまってしまったアナログ


深みにはまってしまったアナログ【2010.03】

理事長 宮澤 健
 

 特養を開設するにあたって自分は何をすべきか悩んだ。特養という高度な介護の現場に私が直接入ることはできない。管理者としては現場で頑張るスタッフを支えることが主な仕事になるし、その重要な枠組みを形作っていく責任がある。それはスーパービジョンとして、個別面談を丁寧に行っていくしかない。それでも現場で私にできることはないかと考えた。そこで是非やってみたいと思い立ったのは音楽だった。24時間一日中ジャズが流れているような特養をイメージした。そんなのは特養なんかじゃない。そこがねらいだ。既存の高齢者施設の概念を打ち破る雰囲気や空気を作れたら最高だ。
 ところがこれで大変な深みにはまってしまった。長年抑制してきたはずのオーディオマニアの炎に火がついた。元々音楽的なセンスはゼロで、音楽に造形が深い訳でもない。単に機械やメカが好きなのだ。録音された信号を音に変えて響かせるというこのメカニズムに惹かれる。スピーカやアンプ、CDデッキなど片っ端から情報を集めはじめた。そして80年代の垂涎もので100万円もした遙か高嶺の花だったダイヤトーンの高級スピーカーが20万円台で売り出されているのを見つけ手に入れた。ついでだが、かつてスピーカの王者だったダイヤトーンが外国メーカーに押され、今や生産していないことも知って驚いた。
 次に30年来使用してきたサンスイのアンプをパワーアンプとしてセパレート化するために、ラックスマンのプリアンプを中古で手に入れた。このあたりまではよかったのだが、音の固さが気になった。そこで真空管のパワーアンプに手を出してしまったのがまずかった。ダイヤトーンの音は格段に品位を持ち、暖かい感じになったのだが、それをきっかけにアナログへ気持ちが惹かれ、20年前の中古レコードプレーヤを手に入れたあたりにはかなりの深みにはまっていた。デジタルの音に感心が向かずCDを聞く気になれなくなっていた。   
 アナログは奥が深い。ターンテーブル、トーンアーム、カートリッジ、カートリッジシェル、MC昇圧トランス、イコライザーアンプ、フォノケーブルとさすがにアナログだけあって小道具も極めて多い。このほかにもレコードを拭くスプレーや布、レコード針を拭くスタイラスクリーニングなど限りない。
 オーディオマニアの中にはCDよりレコードの方が遙かに音が良いと言い切る人もあるがそれは私には解らない。でも確かにCDはほとんど聞かなくなった。レコードや針を拭いたり、CDと違ってリモコンはないので、手作業で針を降ろし、レコードを裏返すなど手間暇はかかるが、全体に心地がいいのはなぜだろう。
 人間は、便利だけを求めるのではなく、手間暇の中に人間らしい何かを感じるに違いない。特に介護や教育の現場では、手間暇をかけることこそ大切なことに間違いない。肝心の特養の音楽であるが、「うるさいので静かにしてください」と言われ音量を絞って小さな音で微かに鳴らしている。なかなかやりたいことはやらせてもらえないものだ。
 

あまのがわ通信一覧に戻る

このページの上部へ


〒025-0013 岩手県花巻市幸田4−116−1
TEL:0198-32-1788 FAX:0198-32-1757
HP:http://www.ginganosato.com/
E-mail:l: