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一対一で出会うということ その2【2010.03】

理事長 宮澤 健
 

 銀河の里はこれまでパートさん含めても40名の組織だった。組織運営に関わる中心者といえば10人程度のものだ。そこへ30名の人数が増えた。しかも銀河の里の雰囲気を知らない言わば「世間」の人が入ってきた。それが全体に分散するのではなく特養に集中してかたまりとなるので、銀河の里ではない集団がほぼ同規模で組織内にできたようなものだった。もちろん研修はしたが、そんなものはほとんど役にたたなかった。
 一方では社会的事情もある。コムスンショック以降、高齢者福祉のイメージは惨憺たるものがある。10年前なら花形だった介護系の専門学校も今では定員割れどころか、半分にも達せず廃止に追いやられるところも多い。卒業生も一般企業に就職する人も多く、介護職に就く人の大半は首都圏に出てしまう。
 専門性を求められ、奥の深い仕事にもかかわらず、重労働の上に給料が極めて低いという現実が介護職のイメージを完全に悪いものとして定着した。おしゃれなイメージに弱い最近の若者には極めて人気のない職種になってしまった。リーマンショックの渦中での求人だったにもかかわらず人員確保にはかなり手こずった。職安は求職者でごった返していても、福祉には誰も来ないという現実が続いている。慢性的な人材不足に陥っていて、他に仕事がないから仕方なく応募したという人が大半だ。
 高齢者福祉は人生最後の時期に関わる仕事と言える。人生総仕上げに関わる仕事だが、そんな重要な部分を他に仕事がないから仕方なくやっているような人に任せられるものではない。また消費者感覚でお金だけ欲しくて文句を言うだけの今時の感覚では、相手や自分に感心が持てるはずもない。とにかく人材で決まる現場だ。誰でも良いわけではない。いきなり30人の組織とチームを作り上げて出発するにはかなりの無理があったのは否めない。スタートしたはいいが現状は惨憺たるものだった。人柄重視で未経験の人が多いのは小規模なので何とか利用者さんが支えてくれるのだが、若い人を中心に、あまりに言語能力がない。なにも伝わらないし発信もされない。苦肉の策として顔を合わせたら手を挙げて挨拶しようなどと提案しなければならない程だった。
 そんな言語能力やコミュニケーション能力がほとんど出てこない若い人たちの中で、ある程度経験のある中高年の女性達が主に現場をリードしていた。しかしこれも裏目に出る。“おばん“を私なりに定義すると、社会的、人間的に成熟をせず、子どものまま歳だけとった女性だ。人間や社会に関して自分で考えたり悩んだりしない。人任せで無責任で表面的な行動しかできない。めざすのは良い仕事ではなく、定刻時間にきっちり帰ることだ。そのために作業だけをこなす。作業は進むが大事なものが消される。そこでは人間が完全に消滅してモノのように扱われて終わりだ。ましてや利用者さんの心や、気持ちは全く歯牙にもかけられない。そこに時代精神の科学主義が制度や監査を通じて襲いかかる。ちゃんと、きちんと、正しいひとつの答えがあるという幻想に飲まれる。人間の持つ多層性、全体性が消し去られる。
 定刻で帰れるのは良いことだが、立ち上げの一ヶ月目からぴったり誰もが時間で帰るのはむしろ異常ではなかったか。この時期は試行錯誤や葛藤にこそ意味があるはずだ。利用者さんの人柄、顔、個性はどこからも見えてこなかった。全く銀河の里ではない施設ができているようだった。
 しかもこれは今や「世間」の象徴なのだろうか、そのうち特養裏サイトが立ち上がっていく。この裏サイトは猛威をふるい、組織を混乱に陥れ、それぞれを疑心暗鬼にさせ、心を閉ざさせ、顔の表情を奪い去って行った。           続く
 

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