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バケツリレー【2010.02】

ワークステージ 佐々木 哲哉
 

 1.17. 阪神淡路大震災があった日。
 当時大学3年生だった私は、震災から早々に現地入してボランティア活動をしてきた友人が熱く語るのを聞いて居ても立ってもいられなくなり、アウトドア道具を詰め込んだザックを背負って深夜の夜行列車に乗って、神戸入りした。 住民の避難生活場所となったある小学校に向かう途中、全壊している建物の隣に無傷のような住宅があったり、小学校に着くと昼下がりの明るいグラウンドで元気にはしゃぎまわっている子供たちがいたり‥‥と、テレビの画像や報道で見てきた状況とのギャップに戸惑った。 私は単純に人手が足りない地域に行って「行けば何かを手伝える」という思いで、人海戦術=バケツリレーという肉体労働に携わることを想定していた。しかし、震災から二週間が経っており、現地では第一段階としての救援活動は終わりつつあり、すでにボランティアによる活動から地域住民主導の自治へ移行を図っていく第二段階に移っていた。
 本来、有償であれ無償であれボランティアだろうが業務だろうが、仕事に取り組む姿勢に差異があってはならないと思う。が、当時の私は「ボランティアだから」と甘えていた。現地でほとんど役に立てないままあっという間に一週間が過ぎ、帰路についた。 あれから15年。紆余曲折の後、僕は今、銀河の里のメンバーたちと、いろんな作業に取り組んでいる。みんなで播いた種から発芽した稲や野菜の苗、手刈りした稲束、箱折りした段ボール、ウッドボイラーの燃料となる薪材‥‥等々、いろんなものをバケツリレーしてきた 。
  この一見ただの単純作業にみえる手渡しの作業は実は奥深いと感じる。例えば受け手が取りやすいように気を使うとか、置いたとき見た目にもきれいに整然となるように‥‥等、連携プレーが試される。機械で省力化も図れるが、銀河の里では、あえて人力で物の受け渡しをすることが、わかりやすい作業であったり、みんなでやっているという一体感が得られたり‥‥と、ただの「物の運搬」ではない大きな意味もあるように感じる。 日が傾き始めた夕刻、土の上でメンバー達と作業しているとき、ふと会話が止まって無心になる一瞬がある。その瞬間は得も言われぬ不思議な光景となって僕の胸に焼き付けられる。決まり切った、こなし仕事としての「作業」ではなく、協力して土にまみれ汗して働くことを通じて生まれる喜びやエネルギーが渦巻いてくる、美しい時であって、それはどんな芸術にも勝るように感じる。
 神戸の震災ボランティアで、避難所周辺の家を廻って所在を確認していたとき、あるお宅で「ありがとう、ありがとう」と何度も涙を流してお礼を言われたことが忘れられない。水不足の中、ペットボトルの水を少しずつ使った歯磨きや、最終日に初めて入った自衛隊風呂の思い出とともに、今も僕の大きな原動力となっている。


 お米や大葉・トマトなどの野菜、リンゴ、餃子や焼売等の生産に今年も一層励み、個人との関わりはもちろん、作業を通じても変容していく力やその「思い」も届けられるよう、そしてみんなの工賃に還元できるよう頑張りたい。遅ればせながら昨年ご購入いただいた方へ、御礼を申し上げます。本年も引き続き宜しくお願い致します。


 「 なべての悩みをたきぎと燃やし なべての心を心とせよ
     風とゆききし 雲からエネルギーをとれ 」  (宮澤賢治「農民芸術概論」より)
 


どんと焼きの火付け隊

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