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辰雄さん復活【2010.02】

デイサービス 藤井 覚子
 

 デイサービスをこの3年ほど利用されている辰雄さん(仮名)は、昨年の11月頃から日中眠って過ごすことが多くなり、食事もしっかりとれず、意識がはっきりしない状況もおこるようになった。
 認知症の主治医に内科の専門に診てもらうよう紹介状をもらったが、総合病院では点滴はするが、認知症は入院できないと断られた。
 致し方なく、点滴に定期的に通ったり、ショートステイで受け入れてもらい、点滴を続けながら過ごしているうちに、状態が少しずつよくなり、元のように目もパッチリと開け、食欲も出てきて、ジッと職員の動きを目で追う様子が復活してきた。「辰雄さーん」と呼ぶと言葉は出なくても目をまん丸くし、キラキラした目で私を見つめてくれるようになった。周りの皆にも「元気になったね〜いいよ〜」と声をかけられると目を一そう大きくして応えてくれる。何かを伝えようとしているのがこちらにもひしひしと伝わってくる。
 辰雄さんは以前から自分の思いを言葉で伝えることは難しい人だが、表情で感情を豊かに表現できる人で、周りの雰囲気に敏感でもある。
 以前こんなことがあった。ホールを歩いている辰雄さんを見たタマさん(仮名)が「だまって座ってろ!」と厳しい口調で怒鳴った。その時、辰雄さんは固い表情でその場から離れていった。その後で、同じテーブルに職員も交えて座り、タマさんに「辰雄さんは働き者で気持ちの優しい人なんだ」と伝えた。タマさんはそれを聞いて「おれの父さんも働きもので優しかったんだ、あんたも優しい顔してる」と辰雄さんに話してくれた。それを聞いて、辰雄さんは涙を浮かべていた。 認知症で言葉を発することはできなくても、言葉や雰囲気を感じることは充分にできているし、むしろそうした感覚や感性は研ぎ澄まされているように感じる。
 先日もホールで私が幸子さん(仮名)と手を繋ぎ歩いていると後ろから辰雄さんの視線を感じた。振り返ると、辰雄さんの温かい眼差しがあったので、嬉しくなり手を大きく振ると辰雄さんも手を前に出してくれた。気持ちが通じたと確信できる瞬間だった。
 「介護の現場で何ができるか」ということも大事だが、「自分が何をしたいか」という気持ちや感情がないと、微妙な表情の変化や相手の心の動きを敏感に察知することはできないように思う。私は、自分の気持ちを言葉や表情で伝えていきたい。気持ちが伝わり通じることは人間の生きる大きな力になると信じている。
 


鬼は外〜!

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