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10年目を迎えた銀河の里【2010.01】

理事長 宮澤 健
 

 銀河の里も開設10年を迎えた。過ぎてみればあっという間だったが、濃密な日々の年月だった。素人集団が10年、大過なく乗り越えてこられたことに感謝したいと思う。離ホームによる捜索も何度もあったし、デイの利用者のAさんが車を運転していなくなった時には終わったかと思ったこともあった。グループホームのHさんが通りがかりの車に乗っていなくなったときは半日行方不明になったが、里から20km離れた田舎道で盛岡から戻ってくるスタッフと偶然出くわして発見された。まさに奇蹟だったが、思えば銀河の里の出現自体が奇蹟的なことだったし、その存在も活動も奇蹟的なありようだと感じられてならない。
 グループホームやデイサービスで認知症の高齢者との様々な出会いによって多くの物語が紡がれた。2005年から始まったワークステージは、それまでの銀河の里とはまた違う雰囲気が、障がいを持った若い人たちの力によってもたらされた。
 認知症や知的障がい、精神障がいといった運命的なハンディを背負う事はひとつの奇蹟なのかもしれない。現代社会の求める効率や利益、パワーからは遠ざかるのだが、それ故にこそ、現代人が失った大いなるものに通じる縦軸の可能性に開かれるのではなかろうか。その縦軸は異界に通じる貴重な通路を開くように思う。現代人はこうした縦軸を完全に喪失したことによって増大し続ける不安を抱えながら生きなければならなくなってしまった。
 福祉施設の仕事は、ややもすると介護や支援を盾に利用者の管理に偏りやすい。我々の現場には、問題を起こさせないように管理、監視する制度やシステムの運用者に成り下がってしまう危険が常にあると思う。そうなると気がつかないうちに他者を支配してしまったりするから恐ろしい。
 銀河の里は、福祉施設の形態は表向きのことで、その本質は運動体なのだと気がついた。元々、農業と福祉現場を実習の場とした人材育成機関だと大見得を切ってきたのだから運動体であるのは当然のことなのかもしれない。運動体と言うことは挑戦が本態だから、そこで重要なのはスタッフ個々のクリエーションそのものになる。その本質は、前述の個々の縦軸に貫ぬかれた異界との関係性の回復にあるはずだ。
 制度やシステムが完備された高度な情報化社会に生きている我々は、異界との関係を完全に失い、他者はおろか自分自身との関係を失うという根本的な不安を抱えざるを得ない現状にさらされている。こうした現状への戦いが里の挑戦である。
 サービス調整や関係機関の連携といった横軸の仕事に専門性を持ちつつ、同時に個々の縦軸に連なる異界への通路として意識し発見し尊重しようとする視点に重要な銀河の里の使命がある。そこにこそ銀河の里特有のクリエーションがあるはずだ。
 そうした活動の基盤として、農業生産による「暮らし」と、人と人の「出会いと関係性のプロセス」を重視してきたが、これは今後も変わらないだろう。ひとりの利用者その人は横軸では認知症者や障がい者かも知れないが、縦軸では、生きているひとりの人間として何者なのか発見されてしかるべきではないか。その発見は単なる他者の発見を超える自分自身の発見であり、関係性の創造につながってくるはずだ。 かつて河合隼雄はゲド戦記を解説しつつ、専門家や関係者に「本当の名前じゃなくてニセの名前をつけて喜んでいる人が多い」と指摘し「真の名前を知らないということだ」と喝破している。秘められ隠されている利用者の真の名前は迂闊に名乗るわけにはいかないはずだが、それを知り守る眼差しと挑戦が現場の我々の使命そのものだ。現場にそうしたクリエイティブがないならなにもやらない方がいい。
 

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