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一郎さんの世界に飛び込んで【2010.01】

デイサービス 小田島 鮎美
 

 いつもほのぼのとした雰囲気で、場を和ませてくれる一郎さん(仮名)。一郎さんはデイでも、仕事のイメージで過ごしている。スタッフがテーブルに広げた紙とペンも一郎さんのなかでは仕事の道具になる。時には椅子を移動したりひっくり返したりの仕事にもなる。指示もする。「書類にはんこをついて出すように」「○○さんに送ってもらうから、(あなたが)出る時は連絡をして、来るように」と言う具合で、いつのまにか私は一郎さんの部下になっている。一郎さんのイメージは理解しずらいことも多いのだが、周りの人たちのことを考えながら、仕事に熱心な人だったのだろうなと感じる。
 先日、帰宅前にトイレに誘った。手を引いて、ゆっくり歩いてトイレへ向かい、ドアを開けて、「トイレに着いたよー、どうぞー」声をかけるが「○○です、どうぞー」と言う。あれ(?)仕事のイメージの世界に入っちゃった(?)トイレのドアの前で立ち止まったまま。仕事のイメージが強いと頑なになるので「トイレです。用を足しましょう」とどんなに伝えても、一郎さんには届きにくい。もう一度「トイレに来たよ、中にどうぞ」と声をかけるが、やはり仕事のイメージで動かない。しばらくやりとりをしているうちに、一郎さんは言葉の語尾に“どうぞ”とつけることに気がついた。そういえば私も“どうぞ”と誘っていたなぁ…はっとした。そう、私たちは無線会話のやりとりをしていた。どちらが引き込んだのか、引き込まれたのか、気がついておかしくて笑ってしまった。そのまま無線会話でトイレに誘うがやむなく失敗。トイレはあきらめ、ホールへ戻ったのだが楽しかった。
 一郎さんのイメージの世界は広い。昼食準備で割烹着を着て厨房から出てきた私を見て「おかぁちゃんだ」とにっこり。それまで「ご飯なので座りましょう」というスタッフの言葉は届かず、テーブル席に背を向けてじっと動かない一郎さんだったが、私が“おかぁちゃん”になりきって「もうすぐご飯なので、座って待っていてくださいね」と話すと、「はい」とやわらかな表情ですんなりと席に座ったので「すごい!」とおもわず笑ってしまった。一郎さんの“おかぁちゃん”が誰だったのかはわからないけれど、「おかぁちゃんだ」と呼んだ一郎さんの優しい表情に私も心が暖ったかくなった。
 利用者さん一人ひとりが、それぞれいろんな想いや世界をもっている。理解が難しいときもあるけれど、利用者さんの世界に自分から近づいて、飛び込んでいきたいと思うし、一緒に居て感じるものを大事にしていきたいと思う。
 

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