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新たな挑戦<後編>【2010.01】

ワークステージ 日向 菜採
 

 松島水族館に着くと、さっきのテンションはどこへいってしまったのかと思うくらい、急に昌子さん(仮名)の言葉が少なくなる。控えめなのに顔はずっと微笑んでいる。最初は魚が怖いのかと思っていたが、どうやら魚ではなく、みんなでいっしょに楽しんでいる感じを、自分はどう受け止めようか戸惑っていたのかも知れないと私は感じた。 きれいな魚を見て「わぁ!すごい!」と言いたいのにそれを抑えているような、人前で感動していいのか悩んでいるようにも思えた。それでも昌子さんが一番気に入ったのはイロワケイルカだった。白と黒の色に分かれているシャチのようなイルカだ。そのイロワケイルカが3匹大きな水槽をじゃれながら泳いでいる姿を、昌子さんはいつまでも見ていた。翌週、昌子さんは3匹のイロワケイルカの絵を描いてきて、千葉さんと私にそれぞれプレゼントしてくれた。 さて遠出したその日は、水族館以外にもうひとつ大きな目的があった。それは、障がい者芸術文化祭に出展した昌子さんの描いた絵を見に行くことだった。私たちは松島をあとにして150kmの道のりを高速道路をとばして一気に盛岡まで向かった。 障がい者芸術文化祭は最終日。会場の「ふれあいランド岩手」に入り「さ、昌子ちゃんの絵はどこかな・・・?」と探している千葉さんと私をおいて、すごい勢いでズンズンと歩いていく昌子さん。「え?」と驚いていると彼女の足が止まり、そこには昌子さんの絵が飾られ照明のなかで輝いていた。会場に入って迷うことなく自分の絵に引き寄せられたのか・・・と言うような昌子さんの動きにびっくりしながら、その絵の前でニコニコ笑っている昌子さんになんだかホッとさせられた。 「せっかくだから写真とろう」と誘うと、「え〜!?」と思っていた通りの答えが返ってくる。嬉しそうに絵の横に引っ張られ、私と千葉さんそれぞれと2ショットを撮った。帰りの車の中で、「なんで写真をとらないといけないの?」「その写真はどうなるの?」としきりに写真について聞いてくる。そのたびに、千葉さんと私で説明するが、昌子さんはなかなか納得しない。いつも遠まわしにアプローチをしてくる昌子さんだから、「写真を撮られることを嫌がっていたけど本当は嬉しかったのかな」と思っていたが、「さっきの写真、よねさんに見せたい」と照れぎみに言った。去年、初めて芸術文化祭に出展したとき応援してくれた米澤さん。去年の出展は、彼女にとってとても大きな一歩だった。そして今年も新たな戦いに挑んだその姿をみてほしいという想いで、米澤さんに写真を見せたかったのだろう。  今回の絵はたくさんの山がそびえたっている風景画だった。私は、その絵を見ながら、自分の高校時代の恩師の言葉を思い出した。とにかくバレーボールがやりたくて高校からバレー部に入り、経験者に追いつこうとがむしゃらにボールを追いかけていたとき、監督が「たまにはうしろを見てみろ。自分はここまでがんばって登ってきたんだなって確かめるんだ。そしてまた前を向いて登っていけ。」と声をかけてくれた。  自分が今どこにいるのか、自分の成長を確かめながら前に進んでいきたい。時には現実から逃げ出したくなるときもある。でも、そんな自分をも受け止めることこそが、本当の強さなんだろう。自分の絵を見て「私はまだ頂上にはたどり着かないんだ。今はまだ森のところなんだ」と言っていた昌子さん。よく「こんな自分が嫌いです」と言う昌子さんだが、彼女が前に進もうとする勢いを失った姿は一度も見たことがない。悩んだり泣いたりしながら、前に進もうとする昌子さんには本当の強さがあると感じた。今の彼女しか知らない私は信じられないのだが、4年前、銀河の里に来た当時の彼女は今にも消え入りそうな弱々しい感じで、通所は続かないのではないかと前の施設でも心配していたという。 今年の絵は昨年とはまた違った彼女の成長を感じさせる。この作品を描きあげた彼女は絵にある遠くの山を目指して進んで行くのだろう。私も彼女の歩みに遅れずに同行していきたいと感じた。い」と照れぎみに言った。去年、初めて芸術文化祭に出展したとき応援してくれた米澤さん。去年の出展は、彼女にとってとても大きな一歩だった。そして今年も新たな戦いに挑んだその姿をみてほしいという想いで、米澤さんに写真を見せたかったのだろう。  今回の絵はたくさんの山がそびえたっている風景画だった。私は、その絵を見ながら、自分の高校時代の恩師の言葉を思い出した。とにかくバレーボールがやりたくて高校からバレー部に入り、経験者に追いつこうとがむしゃらにボールを追いかけていたとき、監督が「たまにはうしろを見てみろ。自分はここまでがんばって登ってきたんだなって確かめるんだ。そしてまた前を向いて登っていけ。」と声をかけてくれた。  自分が今どこにいるのか、自分の成長を確かめながら前に進んでいきたい。時には現実から逃げ出したくなるときもある。でも、そんな自分をも受け止めることこそが、本当の強さなんだろう。自分の絵を見て「私はまだ頂上にはたどり着かないんだ。今はまだ森のところなんだ」と言っていた昌子さん。よく「こんな自分が嫌いです」と言う昌子さんだが、彼女が前に進もうとする勢いを失った姿は一度も見たことがない。悩んだり泣いたりしながら、前に進もうとする昌子さんには本当の強さがあると感じた。今の彼女しか知らない私は信じられないのだが、4年前、銀河の里に来た当時の彼女は今にも消え入りそうな弱々しい感じで、通所は続かないのではないかと前の施設でも心配していたという。 今年の絵は昨年とはまた違った彼女の成長を感じさせる。この作品を描きあげた彼女は絵にある遠くの山を目指して進んで行くのだろう。私も彼女の歩みに遅れずに同行していきたいと感じた。
 


水族館での記念撮影
 

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