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ヨツ子さんの誕生日【2009.12】

グループホーム第1 西川 光子
 

 11月16日はヨツ子さん(仮名)の94回目の誕生日。ヨツ子さんは普段和服ですごし、朝の身支度には大事なこだわりがあって1時間ほどかける。特にヘアスタイルは念入りで、髪のコンディションがどうあれ、いつも同じスタイルに決める技と心意気はすごい。
 誕生日は実家の料亭「枕流亭」に行くのがここ数年恒例で”今年も行けるといいなあ〜”と本人も私たちスタッフもこの日を楽しみにしていた。
 前日まで部屋で休む日が続いていただけに体調が気がかりだったが、当日になって「今日、枕流亭に行きたいけどどうかしら?」と声をかけると「あっそう、行ってみるっか!!」とさっそく深いブルーの大島つむぎに、総しぼりの羽織を迷わずタンスから取りだして、あっという間に身につけた。そのあまりの早さに私はア然とした。そのいでたちに思わずみんなも「あら〜ステキ〜!!」と笑顔で声をかけていた。
 料亭「枕流亭」に着き、車を降りると「あ〜ここ私の実家〜」と大きく息を吸う。その場の空気そのを感じているヨツ子さん・・・・。一緒に行った私達三人も大きく息を吸った。玄関に大きなちょうちんが下げてあり、太い字で「枕流亭」と書かれていた。その文字を誇らしげに「ちんりゅうてい」と大きな声で読み上げる。まるで「私来たわよ!!」と言っているようだ。
 中に入ると、店主さんがわざわざ料理の手を止めて来てくれて「来たっか、いま席いっぺだがらいい席空ぐまでカウンターで待ってけで」と特別席に案内してくれる。するとカウンターの横におみやげ用のお菓子があってヨツ子さんはそれに目が行く。実家のおみやげをみんなに振る舞いたいヨツ子さんは”あれも、これもぜ〜んぶ買って!!”とチャーミングにねだって 紙袋いっぱいに買い込んだ。なぜかきびダンゴが一番多かった。  席が空いて外の眺めのよい場所に案内され、お食事が運ばれてきた。ヨツ子さんは一番先に箸を取り出し、店の銘入りの箸袋を器に立てかけ対面している。 厚めの肉も「おいしい〜」と噛み切り、千切りキャベツ一本も残さず頂いた。目の前をゆるやかに流れる北上川の昔から変わることのない景色を堪能しながら「昔はね、この建物じゃなかったの。ここから奥は中庭があって、100帖の座敷が3つ続いていて・・・」と当時に引き込まれていくヨツ子さんだっだ。先ほどの箸袋は窓辺に置かれていた。私達はヨツ子さんの話にバックコーラスみたいに、「ふ〜ん、ふ〜ん」とうなずくのだった。
 そこに間合いよく店主さん来られて、さっき撮った写真を印刷して持ってきて下さった。思わぬ心づくしに胸が熱くなる。ヨツ子さんも驚きながら「あら〜今日のだえ、たんまげだ〜ありがっとや〜」とお礼を述べた。 その後再び店主さんがいらして「今から出がけなきゃないからゆっくりしてってや。これ息子が作ってくれだから」と誕生日のメッセージ入りで今日の写真を額に入れてプレゼントして下さった。メッセージを読み上げるヨツ子さん「94才お誕生日おめでとう・・」一旦止まって「あら私94才なの?86でなかったっけ・・・・」と首をかしげたが、「なんぼでもいい・・フフフ・・・」と流した。
 他のお客さんがみんな帰ったあとも、私達だけ残って実家を満喫した。さて帰ろうと立ち上がろうとしたが、長い時間浸っていたのですぐに立たてず四つんばいで歩くヨツ子さん。上品で品格のあるヨツ子さんらしからぬ姿に、笑いがおきて大騒ぎする我々だった。履き物を履きながら「勘定はおめはんやてけで〜」と言うヨツ子さんの前に、店主の息子さんはじめお店の方々全員が一列に並んでお見送りをしてくださった。
 94歳、今年も誕生日に実家に来ることができて良かった。暖かく迎えていただきゆったりとした時間を過ごしたありがたい一日だった。
 


美味しい料理に自然と笑顔に



北上川を眺める二人



かわいらしいプレゼント

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