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剛さんの日課【2009.12】

デイサービス 藤井 覚子
 

 デイサービスに毎日通っている剛さん(仮名)には日課がある。剛さんは一日の流れがしっかりと頭に入っており、中でも入浴の順番や、身体の洗い方、食事では箸の色等にこだわりがある。何より日課をはずさないように過ごすことにこだわっている。ところがその日課が最近微妙に変化してきている。好奇心旺盛な人なので、毎日決まった流れで過ごすことに満足している部分もあれば、決まった流れに退屈して、ちょっとずつ日課を変えて楽しんでいるようにも見える。
 自分で今すべき事を決め、剛さんは休む暇もなくどんどんとスケジュールをこなしていく。送迎で到着すると、コップに水が入っていることを確認し、「早く測ってけで〜」といそいそとバイタルチェックを終わらせる。その後はトイレ。トイレからは「1,2、3、4・・・・」と大きい声が聞こえる。初めは何を数えているのかと不思議だったが、タイルの数を数えているらしいことが分かった。以前左官屋だったという話を聞いて納得。
 トイレから出てくると、ジェンガゲームやトランプ、かるたをして過ごすのが日課として決まっている。利用当初は一人で遊ぶだけで満足していたが、1年程経った今、ゲームをしていると「やってみるから見でけでじゃ〜おめもいっしょにやれ」とスタッフや他の利用者を誘ってみたりと、人との関わりを求めてくるようになった。 ゲームが終わると今度は、早足に渡り廊下を通って隣のグループホームを巡って歩く。「来てみたぞ〜」とズンズンと全部の部屋を開けて回る。本人にとってはグループホームの中を歩くのは運動のようで、一日に何度か繰り返す。声も足音も大きいので時には「うるさい!」と利用者から咎められることもあるが、気も止めず剛さんはマイペースを崩さない。
 グループの運動から戻ってくると今度はピアノを鳴らす「1回、2回・・・・・28回」と鍵盤を端から端まで順番に弾く。このピアノも最近、微妙な変化が見られる。28回までだった回数が38回までに増えた。剛さんの後に、私が「でたでた月が〜」と弾くと、ソファに座っていた剛さんが、振りむいて「おめの音たけ〜じゃ」と言って傍まできて「なんでこったに高い音でるの?」といって鍵盤を覗きこむ。「ぜんぶうるせな〜」と笑いながら剛さんも鍵盤を弾く「剛さんの音もたかいよ」と言うと「俺のはこったに高くね〜じゃ」と笑いながらソファに戻る。再び私がピアノを弾くとまた気になったようで「なんでおめそったに高くひけるんだ?」と一緒にピアノを鳴らし「強くおしてだからだな〜あははは」と言ってその場を去ったのだが、私がピアノから離れるとピアノに向かい剛さんは私の弾き方を真似していた。いつもの弾き方は、メロディはなく、鍵盤を端から端まで押さえたという感じだが、この時はメロディのように聞こえた。
 この日から私がピアノを弾いていると側にきて「おめが弾き終わるのを待ってる」と割り込んで弾くこともなくじっと見てくれている。
 日課をこなすのに大忙しで、周りが何を言っても待つことが苦手な剛さんが自分から「待ってる」と言ったので驚いた。お互いに上手ではないが、ピアノに気持ちをぶつけているのは同じで、その部分の共感があって待ってくれたのかもしれない。
 剛さんの日課にちょっと飛び込んで見ると、新しい一面が見える。昼寝の準備をしているスタッフに「ひいでらな〜ありがとう」と本当に嬉しそうな表情を見せ、感謝の言葉を何度もかけてくれる。日課を順番に行うことが大事だった人が、日課の中でスタッフや利用者との関わりをどんどんと求めてきている。送迎をしたスタッフの顔や服装を覚えてくれたり、順番を待つのが苦手だがスタッフの話に耳を傾けてくれたり、スタッフの動きをよくみている。どんどんと関わりを深め、剛さんの世界をもっと広げていきたい。
 


わーすごい!
 

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