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新たな挑戦<中編>【2009.12】

ワークステージ 日向 菜採
 

 11月上旬から開催されている障がい者芸術文化祭に絵を出展することになった昌子さん(仮名)。ハードスケジュールの中で黙々と絵を描きあげ、達成感に満ち溢れていた彼女は、また新たな挑戦にでた。
 金曜日に絵を描き上げ、週明け月曜日。昌子さんと私のふたりでふれあいランドに絵の搬入に向かう。会場に到着すると自分の作品を大事そうに抱えて受付までいく。初めての場面や人に過度に緊張するのでどうなるか心配していたが、意外や、はにかみながら笑顔で受付で絵を渡した。帰りの車中、絵を書き終えた表情には、自分の手で搬入したという安堵感もみられ、その雰囲気に私も一緒につつまれて幸せな気持ちにさせられた。
 途中、突然昌子さんが「最近、人のこと怖くなくなってきたんだよね。・・・たぶんだけど」と話しはじめる。今までは「人が怖いから・・・」と話すどころか、人に近づくこともできなかった昌子さんのこの言葉に驚きながら嬉しさでいっぱいになった。朝方私にくれた手紙を「早く読んで」と「手紙、手紙」と繰り返すので。「仕方ないな・・・」と途中で車をとめて手紙を読む。そこには今までの昌子さんとは思えない変化の様子が感じられた。これまでは消極的で「私はこんなだからダメなんだ」というような悲観的な手紙ばかりだった。けれど今回の手紙には「今度あそびにいきませんか。大好きです。」と書かれていて、そのストレートな表現と昌子さんの成長を感じて、私は涙が出てきた。そんな私の様子を見ながら、「あれ?なんて書いたっけな・・・あっあれ書いたんだ!あのことも書いたな!」と横でニコニコしながら喋っている。照れ隠しの独り言だったと思うが、それも嬉しかった。


 昌子さんは私の目の前ですごい勢いで成長していく。絵を提出したあとも「今度いっしょに水族館にいきませんか」「いつだったら都合いいですか」「こういうの興味ありますか」「どこに迎えにいけばいいですか」と矢継ぎ早に私を遊びに誘ってくれる。以前と違って、他人を介さずとも自分から話しかけてくるし、自分で決めてくる積極性がある。スタッフの千葉さんと私が他の利用者と遊んでいるのを目撃し、嫉妬とうらやましさなど複雑な感情を織り交ぜた言葉で私たちを水族館に誘ってくれた。
 11月中旬、昌子さんの計画した水族館への外出が実現した。3人で向かった先は宮城県の松島水族館。車中、わがままぶりを冗談っぽく笑わせてくれる昌子さん。それに対して、勢いのあるツッコミをいれる千葉さん。ジブリの曲にあわせて3人で歌った。昌子さんは、こんなやりとりを充分楽しんでいたし、「女同士で騒ぐ」という今まで味わったことのない感覚にウキウキしていたようにも思えた。途中、高速道路での運転に少々酔いながらも、サービスエリアで千葉さんと私にジュースを買 ってくれるな ど、仕事場で は見られない 一面も見せて くれた。 (続く)
 


絵と一緒に記念撮影
 

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