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銀河の里音楽祭の特養ミニジャズライブ【2009.11】

特養 中屋 なつき
 

 音楽祭のメイン会場に特養から大勢が移動するのはなかなか大変なので、お願いして、特別に特養でミニコンサートをやってもらえることになった。アバンギャルドなコンテンポラリーのフリージャズを高齢者が受け入れてくれるか不安はあったがやってみることになった。利用者は早々と会場に集まって待ちかまえていた。メンバーがやってきて準備を始めた矢先「はよせぇ!」と叫ぶ優子さん(仮名)。陣取った一番前の席から、あんまり何度もせかすので、「もうちょっと待ってね…」とW.Bassの加藤さんが苦笑いで受けてくれる。
 そんな感じで演奏が始まる前から会場は異様な熱気に包まれていたし、メンバーとのコミュニケーションも生まれていたのだから、曲が始まると演奏者と観客が一体になった盛り上がりを見せた。荒井さんのスキャットニングで歌い込んでいく手法は意味は関係なく感覚で入ってくるので頭を使わなくていい。そのまま体に響いてくる感じだ。


 流血ピアニストとも称されるスガさんが会場の熱気に打たれて張り切ったものだから、アップライトのピアノがグラグラ揺れる怒濤の演奏になった。それをあっけにとられ目をまん丸にしてみていた遠子さん(仮名)、「すごいねぇ!」と連呼しながら自分も空中で指をひらひら、エア・ピアノで一緒に演奏していた。 何度も席を立って落ち着かなかった鉄矢さん(仮名)は、いざ演奏が始まると、ソファに深くもたれて寝てしまった!きっと心地よく眠りの世界に行けたんだろう。それでも曲の終わりには、寝たままちゃんと拍手をしていたのがすごい。


 私は夕方の経管栄養中の二人、葵さん(仮名)と弥生さん(仮名)の間に挟まれて見ていたが、この二人もすごかった。Vocal荒井さんの声に呼応するかのように「あーっ!」とか「わーっ!」とか声を上げる葵さん。おまけに手を高く挙げて振ったり膝でリズムをガンガン刻んだりするもんだから、車椅子から落ちそうになる。ただでさえ経管栄養中は身体が動くとゲップが出たりするから安静が必要なんだけど、そんなこと構っていられないほどノリにノッている。車椅子から落ちないように気をつけながらも、そんな葵さんの姿が嬉しくてたまらなくなって、私も一緒に「わーい!」と万歳してしまう。
 弥生さんは大音響に「いいな、いいな」と終始ニコニコして聞いていたが、ふと、「おい!今、弥生って言ったな?俺のことだな!」と目を丸くして語りかけてくる。んー…そうかな…英語の歌詞なんだけど…と思いつつも「そうだね、弥生さんの歌だね!」と返すと、「うん、おれの歌だな。いんだ、いんだ、ははは」と例のかわいい牙(八重歯)を見せて笑いながら、両手を挙げて拍手している。これもとっても嬉しくなって「やったー、弥生さんの歌だー!」とまたまた私は万歳をする。
 そんなこんなで身体も心もぽかぽかになって一曲目が終わったとたん、絶妙なタイミングで優子さんが「ありがとうございました!」。これには一同ドッと笑いと拍手が起こった。ミュージシャンもこれではノらない訳にはいかない。その後、「もう結構です」を繰り返す優子さんのセリフにも、メンバーはひるまず繋がってくれる感じで盛り上がる。観客と演奏者を繋げて一体感をつくってくれた優子さんだった。
 二曲目の曲は ”What a Wonderful World” ですと荒井さんが紹介すると、間髪入れず♪しーろーじーにーあーかーくー…♪と口ずさんだ優子さんに、パァッと目を輝かせてPianoスガさんが、「ん?!なになに?」と身体を乗り出して優子さんに尋ねた。♪ひーのーまーるーそーめーてー…♪と続ける優子さん。そこで「えっと…、日の丸の旗っていう歌で…」と説明しようと口をはさんだが、でもそんなの必要なしって感じでパッと繋がるスガさん、「ドドソソララソ」のきらきら星のメロディーで曲が始まった。ポロポロンと始まると、「それそれ!」って喜ぶ優子さん。もう絶妙なコンビネーションが出来上がっている。そこからフリーイントロダクションで曲が始まり、乗っているうちに ”What a Wonderful World” が展開する。この自由な対話の感じ!これこれ!って嬉しくなる。
 終演後、打ち上げの席で、特養ミニコンサートは格別良かったという話題が出たとき「きらきら星」をゆっくり歌うと”What a Wonderful World”、になるんだよと言うスガさん、だって元々は「きらきら星」からできてるんだもんね、と言う加藤さん。「すげぇー!優子さん、わかってたのー?!」とビックリな米さんに、「きっと感じとったんだね!」と荒井さん。そうあの人、感性で解ってる人だよとメンバーもまじめな顔で話す。一同、「すごーい!」と感激せずにはいられない。プロのミュージシャンも納得させる感性ってなに?って驚く。そういえばその日、午前中のコーヒータイムの時に♪白地に赤く♪をすでに歌っていた優子さんだったな…と思い出して、ちょっとゾクッとする。 「もう結構です」を何度も言っていた優子さんだったけど、ミニライブが終わった後、一時間くらいずっと「ありがとうございます」を連呼していた。


 その他の人も様々な反応だった。手拍子が止まらないコメさん(仮名)、上目遣いにジッと凝視しているハナさん(仮名)、普段は口数少なく温和しい邦恵さん(仮名)も思わず手拍子せずにはいられないっていう感じ。中には「こんなやかましいのなんか聞いてられないわよ!」と怒って帰ったサエ子さん(仮名)もいたけど、それも含めて、利用者それぞれがその人らしい活き活きした表情を見せてくれた。演奏している人たちも一緒に、それぞれが楽しそうだ。「自由」ってことなんだ。そこに感動して涙が出るんだろう。最後の三曲目、荒井さんのオリジナルの「カルイキビンナコネコナンビキイルカ?」というタイトルだ。上から読んでも下から読んでも、っていうやつで…と曲の紹介中に「にゃーっ!」と叫ぶ葵さん、曲が始まると「猫、ケンカしてらな、あ〜ははは」と笑っている弥生さん。コンテンポラリージャズわかんないどころかみんなノリノリで見抜いているじゃん。見事あっぱれ!存分に楽しんだ特養ミニライブ。「らしい」ということ、「自由」ということ、はたまた「何でこんなに涙が出るんだろう?嬉しい!」ということを思いっきり感じれるひとときだった。ありがとう!


イラスト 中屋なつき


特養内に広がるJAZZの音色♪


特養ライブにて

 

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