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一平さんの存在【2009.11】

デイサービス 小田島 鮎美
 

 デイサービスを長い間週1回利用している一平さん(仮名)。私は、一平さんにとても緊張する。話しかける時も言葉を選びながら、聞き取りやすいようにはっきり話そうと意識して、あいさつはしっかりと…と心のなかで覚悟を決めて(?)一平さんのもとへ行く。介助の時はどこかぎこちない動作で、かしこまってしまう自分が居る。でも、私のこの緊張は、良い悪いではなく、一平さんの存在によって私がそうなるんだと気づいたら、なんだかすごいことなんじゃないか!?と最近感じるようになった。
 一平さんとの関わりで一番緊張する場面は“お風呂”。
  一平さんは、1番風呂にしか入らないというこだわりがある。私はそれを意識せず他の利用者さんを先にお風呂に誘ってしまい、一平さんを怒らせてしまったことがあった。将棋の真剣勝負をしていたので、お風呂に誘うのをためらったのと、入れる方達から入ってもらいたいと思い、一平さんのこだわりを尊重しなかった。こちらの事情を伝えるのは怖かったが、正直に話すと一平さんは、「風呂なんかどうでもいい。帰る。」といきなり上着を着て将棋板をかばんにしまい込み怒って帰ろうとする。
 私も他のスタッフも謝るのだが許してくれず、一平さん自身も“帰る”と言ってしまって引けない感じになり、もう互いに苦しくなってしまった。少し時間をおいて藤井さんが一平さんにお風呂のことには触れずに話しかけると「将棋をしていると親の死に目にもあえない」という話をしてくれた。将棋の途中でもお風呂の時は話しかけていいからと言っているような言葉だった。結局そのときは午後の1番風呂で納得してくれた。
 私はその後余計に緊張して、一平さんの入浴にはぎくしゃくしていた。あまり介助をしすぎてもいけないと、隣で遠慮がちに介助をしていると「見てないで、手伝うんだ」と言われ、頑張って介助すると「俺はそんなこと、されたことがない」と言われ、いったいどうしたらいいんだろう…、とモヤモヤしてわからなくなるのだった。
 自分の緊張を消し去りたくて、ありのままの気持ちをミーティングで話したら「一平さんっていう存在が、鮎美さんをそうさせるのかもね。でも、それってすごいよね。」と言われて驚いた。確かに居るだけで、私に緊張感を与えるってすごい!私は、一平さんの存在の大きさを感じていたんだ。一平さんという一人の人間に、私という人間が出会って、かかわりあって、生まれるものがあるのかもしれない。そう気がつくと肩の力がすっと抜けたてきた。
 翌日、一平さんはいくらかめまいがすると言いながらも入浴したいとのことで、看護師に相談し無理のない範囲で入浴することになった。あいかわらず緊張の私だったが、着替えの介助をし、浴室で背中を流し、湯船に入った。すると「ここに来て、どれくらいになる?」と一平さんが聞いてくれて「7ヶ月くらいになります」と答えた。それから以前2時間もお風呂に入るおばあちゃんが居たんだなどと話してくれる。
 お風呂から上がり、着替えをしていると、一平さんが突然、目を閉じて、口をパカッと開け、顔を左右に動かし始めた。めまいするって話していたし、具合悪くなったのかな?!とびっくりしていると、にやりと笑うので(冗談だよ)、私も思わず笑っていた。こんなやりとりは初めてだった。
 ホールへ戻って定席の座布団に座ると、近くのスタッフを手招きするので、なんだろう?と思っていると、私を指差し、「大人になった」と言う。褒めてるんだとなんだか嬉しくなり、涙が出てきた。直接言わないところが、一平さんらしい。
 最近、担当者会議で、一平さんは他のデイサービスではお風呂はいつも最後の方ですよなどと聞いてスタッフはみんな驚いたが、私に異常な緊張をもたらす一平さんの存在に感謝しながら、これからは私らしく一平さんを一番風呂に誘ってみたい。


お風呂の前のバイタルチェック

 

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