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新たな挑戦<前編>【2009.11】

ワークステージ 日向 菜採
 

 11月8日から15日まで、岩手県障がい者文化芸術祭がふれあいランド岩手で開催されている。10月初め、去年この絵画部門に出展している昌子さん(仮名)に声をかけた。
 毎日のように絵を描いてきて私たちにプレゼントしてくれる昌子さん。絵は彼女の自己表現のなのだが、最近は言葉でも相手に伝えよう頑張っているのを感じる。芸術祭の話をすると「え〜!?」と恥ずかしそうに照れていた。その後2週間ほど経っても返事はなく、「最近絵を書く気になれない」という話もあり、「今回は無理なのかな・・・」と私は思っていた。その後、私の研修や昌子さんの通院でしばらく会えなかった。その間、「日向さんに話したいことがある」と話していたと聞き、私は出展を断る返事だと思っていた。
 久しぶりに会うと、緊張して話しかけてこられない様子だった。2日経って昼休みに覚悟を決めたのか、恐る恐るの感じで私に向かって「絵の作品・・・出し・・・出し・・・た・・・い・・・です」と話してくれた。出さないつもりで、断ることのためらいで緊張しているのかと思っていたので驚いた。その日は申し込みの締め切り日で、作品の提出期限は5日後に迫っていた。
 私の方が慌てて嬉しさと戸惑いに揺れながら「そっか!いいんだけど・・・実は・・・」と日程のことを話すと、彼女は腹が決まっていてそんなことは気にもとめない。「何を書くかは決まっている」ときっぱり。「しっかりして!」と言われたような気持ちになった。提出まで時間がないことで逆に気合いを入れ、やる気満々の姿をみて、「私もいっしょにがんばらなくては」と思った。
 その日の夕方、二人で画用紙を買いに行き、翌日から絵にとりかかったが、夕方までには下書きができあがった。次の日は、朝からずっと相談室にこもって色を塗り製作に集中した。時々のぞくと夢中で絵に色を乗せていた。声をかけると照れくさそうに笑うが、まったく疲れた様子はなく楽しそうだった。夕方6時半、絵が完成し、昌子さんが相談室から笑顔で出てきた。たった2日で絵を書き上げたその勢いに圧倒された。
 これまでの昌子さんの絵は動物や大好きなポニョ、職員など生き物の絵が多かったが、今年の秋あたりから山や空などの風景の絵が見られるようになってきていた。出展する作品も風景画だった。画面中央より上は多様な色彩の山がたくさんそびえたつ。その下には森が描かれ、さらにその下には海が広がって、そこにはポニョやカニ、魚が泳いでいる。昌子さんは「私はまだ頂上にはたどり着かないんだ。今はまだ森のところなんだ」と話している。この絵には、「彼女の挑戦」そのものが描かれていると感じさせる。
 絵が完成したこの日、昌子さんを自宅まで送った。運転席の隣にいる昌子さんは達成感に満ちたとても良い表情をしていて、あまりにその雰囲気がまぶしすぎて、私は言葉をかけることが躊躇われるほどだった。
 昨年芸術文化祭に出展した絵も彼女のある到達点だとみんな感じたということだが、今年の絵はまた去年とは違った昌子さんの変容を伝えている。現実にも日々たくましさを増していく昌子さん。絵を通じてこれからもどんな展開を見せてくれるのか楽しみだ。(続く)

 

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