トップページ > あまのがわ通信 > 「おいしい」ということ


「おいしい」ということ【2009.10】

グループホーム第2 前川 紗智子
 

 「あら、この漬物おいしい!あなたもちょっと食べる?」食卓を彩るおいしい言葉。
 里の畑でとれたキュウリ、オクラ、ツルムラサキ、ピーマンなど野菜たちを、バッと刻んでだし醤油で味付け、卵も混ぜて、ささっと出来上がった一品。皿に盛るでもなく、作ったときのボウルのまま、出来立てほやほやの感じでテーブルを回っていく。「ねぇちょっと、こんなの作ってみたんだけどさ・・・」「どれどれ。アラ・・・おいしい!」「ほんと?!よかった。」こんなやりとりがおいしい。普段あまり言葉で語らないトモミさん(仮名)もそんなやりとりに「いいね。」と言って笑っている。
 畑があって、自分たちで作った旬のものをいただけるこの幸せ。それぞれに配膳された食事をもくもくと味わうだけでなく、その時々のご馳走が、みんなをつないでいく。「おいしい」には、食べものそのもののおいしさを超えて、みんなで食べて楽しいっていうおいしさもある。漬物やちょっとした季節野菜のおかずを作る楽しみはそんなところにもある。


 この夏、県内外から集まった子供たちを対象にした20日間のキャンプにスタッフとして参加させてもらった。キャンプが始まった当初、子どもたちはあまり食欲がなく、食事の場面は会話も少なく寂しい感じがあった。15人前後のみんなの顔が見えるようにと、大きな正方形のテーブルを囲んで、おかずは3つずつの大皿に盛ってそれぞれが取り分けるスタイルだった。みんなの箸が伸びないので、もっと食べてもらいたいのと、どのくらい食べたのかがわかるように、一人ひとりの皿に配膳した方が良いのではないかという声があがった。
 その時、献立から調理まで食事のコーディネートをしていたキッチンスタッフのナベさんが言った。「それぞれに取り分けたくないんですよ。むしろ子どもたちの距離が遠いんじゃないかな・・・。テーブルの並び、変えてみません?・・・いや、僕ね、子どもの頃によその家でも食事をご馳走になってたもんで・・・わかるんですよね。自分の家ではそれぞれに用意されてたんだけど、友達の家は、おかずが大皿でどん!どん!って出されてて、『それとって』、『あれとって』って、結構にぎやかなんですよ。俺なんか、最初気つかっちゃって、席立っておかず取りに行くと、『言ったら取ってやるのに!』って言われてね。今の子供たちもそうだと思うんですよ。遠いんです。慣れてくると、声も出るようになると思うんだけどな。それに、自分の皿だけだと、そればっか見て食べるけど、大皿だと他の人へも結構気遣うようになるんですよね。今のテーブルだとお互いの距離が遠いから、物理的に近くしてあげたらいいと思うんです。」
 「食べる、食べない」を何だったら食べるのか、とメニューの話だけにしてしまったり、食べれればいい、じゃなくて、「食事」の場面には人との関係性や、コミュニケーションが重要な要素としてあることをキッチンスタッフのナベさんは理解していたのだ。
 そこで正方形のテーブルを長方形に直し、向かいや斜め向かいの人との距離を近くし、大皿へも楽に手を伸ばせて、一緒に食べている感じが伝わる配置に変えた。すると自然に会話が始まり、にぎやかになって食卓においしさがやってきた。会話が途切れないことでつい大皿にも手が伸びる。そうして日に日に子供たちの食べる量は増えていった。


 今はみんな個食しか知らない。家の食卓でさえレストランや食堂で食べるような感じになっている。本来食べる時間は、集まる時間、語らう時間、コミュニケーションの時間ではなかったか。「おいしい」とは人と人のやりとりの中にあると感じたエピソードだった。
 銀河のグループホームでは戸来さんがよく、出された献立以外に、冷蔵庫から常備野菜をサラダなどにして大皿を添えていた。それは献立を増やすとかそういったことではなく、人と人を繋ぐ一皿を盛ったのだと感じたことがある。食事の場面に限らず、ナベさんや戸来さんのように人と人の繋がりを見つめる人はそうした視点を鋭く持っていて、実にさりげなくそうした場と時間を創り出していく工夫ができるのだ。


 「食べる」って「おいしい」って、そこもやっぱり「人」なんだなぁと思う。
 


肩もみ、気持ちいい?
 

あまのがわ通信一覧に戻る

このページの上部へ


〒025-0013 岩手県花巻市幸田4−116−1
TEL:0198-32-1788 FAX:0198-32-1757
HP:http://www.ginganosato.com/
E-mail:l: