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花火の対決【2009.09】

グループホーム第1 西川 光子
 

 「おら行がね、いがね。花火ばいっつも見でるがらいい〜。おめど行って来!!行がねったら 行がねよ!!」と夕食後さっさと布団に寝てしまったミヤさん(仮名)。今年の花火大会は特養も一緒に行く事になっていて、グループ1はぜひ全員で出かけたいと計画をしていた。
 何とか行く気持ちになってもらおうと誘うが、返ってくる返事は”行がない!!”。そこで一人になるのが嫌いなので、「みんな行って一人っこになるよ。誰も居なぐなるよ。いいのっか?」といってみたが、なんと返ってきた返事は「一人でもいい。寝てるから。い〜でば、やんかやんか。」とますます動じない。
 みんなが車に乗り込み最後の一人になった。すでにウトウト寝始めている。どうしようか・・・・。”でもやっぱり一緒に行きたい。起こすけどごめんね”と声をかけた。「ミヤさ〜ん。ぺっこ起ぎでけで。北湯口の人達みんなしてバスで来てミヤさんのどご待ってだよ。すぐそこさ来てだのす。」と言ってみた。 ねむそう〜に「どごさえ〜」と体を起こしてくれた。よし!!もう一歩と勢いがわいてきた。「まず、せっかぐだから、みんなど一緒に行って見でこねっか?」と続けたが「やんかやんか行がね、いがね。おめ行って断ってきてけろたのむ〜」と得意の甘い願い節でたのまれてしまった。
 「だ〜れ、ミヤさんのこど待ずでらのさ、俺ばり行ったってみんながっかりするんだよ。まず顔だけでも出さねば申さげねんだね〜」と義理深いミヤさん!!もう祈りにも近い心境になっていた。「じゃ二人で断ってこねっか」と言ってみる。
 「ほだな。足も痛ですよ。寝ぷてすよ・・・・」と言いながらも起きて玄関に向かってくれた。私はドキドキしつつも”ここまで来れば大丈夫”と安心した。ところがバスまでは行ったがステップに足を上げようとしない。握り棒に手をかけ「あのよ、行がねからたのむよ」と元気よく断る。「運転手の人、耳遠いみたいで聞こえねど。まず中さ行ってしゃべって!!」あせった私は無意識にミヤさんを後ろから押した。すると「なんたら、何して押すのや!!」と怒りだし「まずわがね、ける」と戻ってしまった。私の話す”まず”とミヤさんの話す”まず”は全く正反対の意味でミヤさんに私は完敗。
 しかたなく早まわりして玄関の鍵を閉めた。「なんたら開がねじゃ〜」と別スタッフに相談するミヤさん。それでしかたなくバスに乗って出発。ところが バスが出発したとたんに「運転手の人によ”わらすも泣いでるし、おれ行ってられねのだから北湯口までいってけろ”っておめたのんでけろ!!」と言ってくる。「ミヤさん直接たのんだ方がきいでけるど思うよ。たのんでみで」と返すが受けつけず「まず、おめたのんでけろ。それそれ。」と頑なだ。
 私は、半分ミヤさんになりきっていた様で、ありったけの声で前席の運転手にたのみこんでいた。運転手の戸来さんが耳に手を当て「はあ〜よく聞ぎねども・・・・」と受けてくれ、現地に着くまで、そこでのやりとりが続いた。だんだんみんなそのかけ合いが楽しくなり、まさしくシナリオのないアドリブミニ劇場となった。
 バスの中のみなさんもしっかりこのことに注目してくれ笑い合ったり、ヤジったりで観客になってくれた。主人公のミヤさんは現地に着くと「ねぷたぐなったじゃ〜」と言いつつも外に用意された椅子に腰かけ、出されるおやつに「これめがっけな」と好物のがんづきをおかわりしている。「花火は」には「うん、きれんだ、きれんだ」と社交辞令風であったが最後までつき合ってくれた。 帰る段になると、来る時の大騒ぎとは違って一番先にバスに乗り込み、悠々としている。私も隣でゆったり他のみんなが乗り込む様子を見ていた。
 最後に車椅子の特養の方が、車いすから降りてバスに乗り込んできた。数人のスタッフの支えで、バスのステップヘ上がる。スタッフの動きがスムーズで驚く。その時理事長のさりげない声掛けと、何気ない体の支え方がとても印象的だった。力むことなくあくまで自然体で、心のこもり方が指先にまで行き届いているように感じた。そしてバスに乗りおえた時の喜びを共有する理事長の一連の対応に心うたれるものがあった。
 ミヤさんとの格闘のあとのショットだったから余計印象に残った一コマだったと思う。私にとって今年の花火大会は格別意味深いものになった。
 


見て〜きれいでしょう〜
 

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