トップページ > あまのがわ通信 > 認知症と新たな知恵


認知症と新たな知恵【2009.09】

デイサービス 板垣由紀子
 

 この4月から居宅支援事業所に移り、ケアマネージャーとして利用者のお宅を訪問し銀河の里以外の事業所や病院とのやり取りをし、施設内とは違った繋がり方を考えさせられるようになりました。根底にある、本人をどう支えていくのかと言う基本は変わらないものの、現場によって違った枠組みがあるのを感じています。
 以前デイサービスにいたとき「デイサービスはちょっとあるのがいい。」と理事長にいわれすぐには理解することが出来ませんでした。グループホームでは、「本人のありよう」に焦点を絞り、一般には問題行動とされがちな言動を窓(入り口)にしてその人の世界に触れながらそのプロセスを大切にしようとしてきました。でもそれは、グループホームという器に守られて可能になる事であって、デイサービスでは器がまるで違って、主体は在宅の家族で、それをどう支えるかという脇役の仕事がデイサービスのポイントだと言っているのだと気がつきました。
 自宅で骨折した昭太郎さん(仮名)は、退院後、銀河の里のデイサービスを週一回利用しています。認知症の方で退院後の歩行の安全性に不安があり再転倒も心配しましたが、心配をよそに自在に歩けるようになりました。話し好きで、利用者同士のムードメーカーとして場を盛り上げてくれます。反面、頑固な一面があり、「帰る」と言い始めるとなかなか説得が効かず、スタッフは一方的ではないやり取りで、あれやこれやと悩みながら対応しています。
 ある時、バイタルを測ると本人はいたってけろっとしていますが血圧が低く脈拍が150近くあります。そんなこちらの事情を伝えても聞いてくれる訳もないので、今日も「帰る」モードになるのか、何かにはまれるかと様子を気にしながら隣にいると、看護師が「このバイタルじゃ、すぐに横にしましょう。」と本人に体の状況を説明し横になるよう勧めました。でもまるで伝わりません。看護師も困り果てて「判断できないんだよね。」とつぶやきました。
 こうした言葉は認知症の方の病院受診で医療関係者から何度も聞かされました。解ってもらえないのはグループホームでは日常の前提なので、「当たり前じゃない。そんなんで不気味がらないで欲しい。この人にはこの人の世界があるんだから」と怒りが込み上げたものでした。でもこの時は「判断できない人に、私たちはどういたらいい?」という問いが自分のなかに返ってきました。「判断できない人」世間の常識からすれば当然の「こちらの言うことが全く正常には伝わらず指示に従ってもらえない問題のある人」という見方です。医療的には「通常なら立ってもいられないバイタルの状況」も現実にそこに立ちはだかっています。「すぐにも横になってもらわなければ」というのは看護師として正しい判断です。
 そこにもう一つ大きな壁、認知症が立ちはだかった場面で私たちはどう動くのかが問われているのです。医療的なリスクがあり、一方それとは全く関係のない世界に認知症の本人の気持ちや感情が動いている。この両者の狭間に立って現実を見つつ、一方で認知症の世界により添い、タイミングを見つけながら誘導していけるかどうかが問われます。「正しい判断」と「生き生きと動いている気持ちや感情」を私たちの立ち位置でどうすればいいのか考える必要があります。単に理解できず判断を欠いた人として操ることはしたくありません。今、認知症の人と関わりのなかで、人間を見つめる新たなパラダイムが求められていると思います。それを創造していくのが認知症の人に関わる現場の大きな仕事ではないかと感じるのです。
 

あまのがわ通信一覧に戻る

このページの上部へ


〒025-0013 岩手県花巻市幸田4−116−1
TEL:0198-32-1788 FAX:0198-32-1757
HP:http://www.ginganosato.com/
E-mail:l: