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シソ畑に見る断章−新たな出会い【2009.08】

グループホーム第1 西川 光子
 

 7月から新しくグループホームに入居された歩さん(仮名)は畑仕事が大好きな方だ。これまで何度か一緒に畑の草取りをした。その都度、「あいや〜 このシソ ずいぶん いぐなったごど〜。チジミッコで色もとってもきれいだね。使うんだば、好きなくれ取ってっていいよ。キュウリもピーマンもそごらにあるがら、いずでもいいがら持ってってや。いがったらばだよ。」と言ってくれる。
 毎回草取りを手伝ってもらったお礼に実ったものを「いがったらば」持っててやと言うその心配りに感動する。歩さんにとっては、畑仕事は収穫したものを人にあげて喜ばれるためにやる作業に違いない。だからかもしれない「持ってってや」というときのその屈託のない笑顔は何ともいえない深みがある。
 ”いがったらばだよ”と負担にさせない心づかいも絶妙で心打たれる。こういう言葉づかいと心配りが身についた振る舞いが我々にできるだろうか。若い人たちにそれを伝えていけるだろうかとつい考えてしまう。
 歩さんと草取りを一緒にしながら、今年の梅漬けの時はこのシソを“一緒に収穫しよう”と私はその日を待ちわびていた。塩で下づけした梅がちょうど良い具合になったので、デイサービス、グループホーム、ワークステージと集まって梅漬け作業をすることになり、その前日の夕方シソを刈り取ることに決めた。 「さあ〜今日はシソの葉とりですよ。お願いします。」と歩さんに声をかける。「いいよいいよ。みんな取るのっか。行ぐ時教えてけでや。」と歩さんも楽しみにしてくれている。 ところが午後になると雨が勢いよく降りはじめた。ショック!! 夕方まで止みそうにないと思われるほどの激しい雨になった。
 ”午前のうちに取っていればよかった。”と残念やら悔しいやら、やるせない思いでいっぱいになったが、自然が相手ではどうしようもない。”仕方ない。明日の朝一番に賭けよう”と開き直った。ところが、そのうち、なんとうその様に雨が止んだ。”さあ〜今だ。早く行って刈って来よう”と大急ぎで長靴、ハサミ、ビニール袋を用意し、二人で畑に出た。 ところが雨の後なので「あや〜葉っぱで濡れるんだよ。おめはんズボン汚さねっか。シソの色っこつげばとれねんだよ」と歩さんは私のことを心配してくれる。そこでビニール袋をズボンの上にはいてみた。なんともこっけいな格好だったが「あや〜いんだ いんだ フフ・・・」と笑って言ってくれる。そのフフフは「確かに変だけどいいんだ」というやさしい含みを感じた。
 また雨が降り出す前にと、急ぎで大袋2つほど、シソの葉を刈り上げた。幸い雨も降らず、刈り終えて二人でほっと顔を見合わせた。
 「や〜やよがったね。あどは種っこに残しておぐっか。」と作業を終え、シソを抱えて洗い場の屋根の下に着いたとたんに、雨がザーと音をたてて降り出したのだった。なんとかセーフ。


 シソを洗いながら思い出した。この春、まだデイサービスに通っていた歩さんと、小さい、シソの苗を一緒に植えたのだった。「この位離して植えればいいっか。みんなでやるどおもしれね。」と語っていたその時の歩さんを思い出す。その時はグループで一緒に生活するようになるなど思いもよらなかったのだが・・・。
 私たちの「夏の晴れ間のシソ取り」だったが、その出会いはすでに春に芽ばえていたんだなあと感慨深かった。
 

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