トップページ > あまのがわ通信 > 草っことってよがったな


草っことってよがったな【2009.07】

グループホーム第1 西川 光子
 

 この春、新たにグループホームに入居してきたフユさん(仮名)。腰痛があってほとんど部屋で横になってすごしている。トイレに行く時など物音ひとつさせず、ベッドからスルリと床に降りる。そして四つんばいで目的地に向かうのが常だ。そんな時「どごさか行ぐ所だっか?」と声をかけると「あや〜申さげねな〜。ありがとや、どうも!!」と手を引いて立ち上がる。
 ”趣味は草とり”と聞いていたのでいつか畑の草取りに出たいとは思いつつ、普段が四つんばいなので、長らくためらっていた。ところがある日、度胸を決めた山岡さんが「フユさんとテラス前の畑で草取りしてます。来れる人お願いします。」と声をかけ、畑に向かった。
 いよいよ来たかと、私は「うん行く、行く」とはずんで返事をした。畑仕事が好きなゆう子さん(仮名)も誘って一緒に畑に出た。みんなで畑に立つと乾いていた畑が一気にうるおった感じがした。私達の気持ちがうるおったに違いない。
 見るとフユさんは、両ひざを土につけシャカシャカとリズミカルな音を響かせて鎌を動かし、あっという間にあたりの草が消えていく。さすが”趣味は草取り”と申し送りに書かれるだけのことはあるとうなずけた。畑の草取りの四つんばいは大地とマッチしていて、とても自然だった。室内の違和感のある四つんばいとあまりに違う印象が不思議だった。
 ゆう子さんは青菜を見て「こったにこごっておいでダメなんだ!!」と間引きを始めた。間引かれた青菜は、すぐに持てないほどいっぱいになった。中にいる人に洗ってもらおうととキッチンに持っていったところ、ミヤさん(仮名)が忙しそうに「わらす探しさ行がねばね。おめよ!!行ってすけね」と話しかけてきた。先日餅つきの縁どりで大活躍したばかりのミヤさん。思いきって「これ洗ってすけね〜」と返したら、なんとすんなり「これ洗えってな」と作業を受けてくれるではないか。 一本一本丁寧に洗った上に、さらにテラスに積み上げてあった青菜を見つけ「これもやればいいんだべ」と足取り軽く運んでいく勢いに驚いた。
 ミヤさんも含めて畑とキッチンの見事な連携にみんなの作業は一段と活気づき”結いっこ”の気分になった。畑の方では間引きも終わり、全員で草取りに集中している。ふと顔を上げたフユさんと目が合うと「ありがっとや!!」と笑顔でお礼を言ってくれた。自分の畑をみんなが手伝ってくれているイメージなのだ。そのイメージの中に入って手伝う人達の感覚は心地よい気分として盛り上がった。
 間引いた青菜を洗い終えたミヤさんも、ベランダに出て畑の作業を見ている。「誰がずるけるがもしれねがら見ででけでや」と言われて「そだな ハ ハ ・・・」と両ひじを椅子にもたれかけて監督役を引き受けている。それが不思議とミヤさんの”見守り”の中で草を取る感じになった。”見守り”ってよく言うけど”見て守る”人がいてくれることは凄く大きなことなんだなと体感した。
 やがて「小昼だずよ〜。こっちゃ来てんじゃ」とミヤさんの声に「じゃ今日は終わりにするっか」と一同畑を引き上げた。フユさんは「おれの鎌どれだったす」と道具を大切にする心を見せてくれて、さすが達人と感じさせられた。
 ゆう子さんもゴム手袋を脱ぎながら「洗っておがねばねんだな。みんな”いっちょ”にしておけばいいんだよ」と教えてくれる。
 テラスではお茶におやつが華やかに用意され、心和む充実の時を過ごした。入居者が4名入れ替わり新しいメンバーになって3ヶ月の激動の日々が過ぎて、久々に里の”暮らし”を満喫できた時間だった。
 フユさんは、それから畑を見る度に「あの時、草っことっていがったな〜」と口にする。みんなの心にいつまでも残る草とりの一コマだった。


くさとって一服!



草はとるもの、おいるもの

あまのがわ通信一覧に戻る

このページの上部へ


〒025-0013 岩手県花巻市幸田4−116−1
TEL:0198-32-1788 FAX:0198-32-1757
HP:http://www.ginganosato.com/
E-mail:l: