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新人ケアマネ奮闘記【2009.07】

居宅ケアマネージャー 板垣 由紀子
 

 寝たきり寸前、ぎりぎりの攻防 その2  「積極的な“生”の復活」


 ショートステイで受け入れてもらって、その間なんとか戻る場所も確保したが、今後どうしていったものか。身体的な状況が回復しても、2階が寝室のアパートでは、転倒など同じことが繰り返されることは目に見えている。長期的な今後の検討のため、市の生活保護課、サービス事業所の関係者に集まってもらい担当者会議を開く。
 平屋の市営住宅に移れないか。空きはあるのか、引っ越しの費用は生活保護費で出るのか、施設入居を考えるべきではないか。かなり自由度が高い施設でないと本人の性格やニーズにそぐわないのではないか。生活保護が対象の施設でなければならない等意見が交わされた。
 市営住宅は建築課が担当で、この場では見通しが立たず、ケアマネージャーの私から、建築課に問い合わせ、生活保護課からも話をしてもらうことになった。
 建築課では、生活保護の人の市営住宅入居をためらう傾向があった。「入居後に生活保護になるのは仕方がないが・・。」と考え込む。「立て替えの住み替えなら問題ないのですが・・・。」立て替え予定は2年も先のことで間に合わない。低所得者を対象に古い平屋を残す話も出ているが決定ではないとのこと、結論は出ず、生活保護課と相談してみるとの話になった。ショートステイは20日が期限になると伝えて連絡を待つことにした。
 そうした調整中に本人はショートステイでみるみる元気を取り戻し、車いすで自走し自由に動きまわり、玄関脇の喫煙場所に通って来るまでになった。食べるものを食べ、介助付きでお風呂に入り、自分のスタイルを貫き、スタッフに醤油を買ってこさせたり、朝はパンがいい、たばこがなくなる・・・等とにかく注文をつけながら、快適に過ごしていた。
 薬は完全に自分勝手な飲み方をしていたので驚いた。体調を壊さないのがおかしいくらいだ。むしろ薬は飲まない方がいいのではなかろうかと思う。看護師も「薬を残したり、足りないと催促が来る。」と困っている。「処方箋通り飲まないなら、受診した意味がない。ここでは、医師の処方通りにしか薬は出せないから。」と本人に話す。「わかった」とは言うものの、長年これでやってきただけあって、勝手な飲み方は改まらず、スタッフを困らせた。
 ショートステイに入って2週間も過ぎると、痛みも消え、デイサービスにピアノを弾きにいくまでになった。久々のピアノは、思うように指が動かずとぎれがちではあったが、それでもなかなかのものだった。そうした生活が続くようになると、薬へのこだわりは、すっかり消え、処方通りに飲むようになったから不思議だ。
 施設での生活にもなれ、スタッフともなじみの関係ができてきた。ショートステイをベースに、今のままのアパートで一階に限定してやっていけるのではないか思えるまでになってきた。彼のためにピアノをショートステイに運んで調律もした。思う存分いつでもピアノを弾ける環境も整えた。(つづく)


孤高のピアニスト

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