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新人ケアマネージャー奮闘記【2009.06】

居宅ケアマネージャー 板垣由紀子
 

寝たきり寸前、ぎりぎりの攻防@

 その人と初めて会ったのは、6年前、その人はピアノを弾いていた。その場のアドリブでオリジナルなアレンジの味付けをしていくピアノ、その型にはまらない感じに魅了された。
 時は過ぎて、その人は私のケアマネの1番目のケースとなった。2階建ての市営住宅で一人暮らしをしてきたその人は最近、階段から落ちることが増えていた。年を重ねて筋力が衰え住宅環境が合わなくなっていた。階段から落ちたとき、彼が真っ先に確認するのは、指が動くかどうかだと言う。さすが根っからのピアニストだ。
 2階の生活は無理だと彼もわかっていて平屋への転居を市に申請してきたが、長らく反応はないままだった。階段から落ちて救急車で病院に運ばれたのはすでに3,4回程ある。
 今回も転落し救急車で運ばれたが骨折には至らず、打撲ですんだ。根っからの自由人である彼は、打撲とわかると自分で勝手に退院を進めてしまうので私はとまどった。結局入院一泊で無理矢理退院許可をもらって次の朝、家に戻ったが、体力が低下していて、歩けるような状態ではない。
 2階が寝室だが上がるのはあきらめ、1階に布団を降ろした。夕方もう一度訪問して、棚をつたって廊下まで実際に移動してもらうと、ゆっくりだがなんとか歩くことができた。ところが翌日から痛みが増し、這うことはおろか、食欲もなくなり、日に日に衰弱していった。
 このままでは、寝たきりの危険性もあると判断し「何処か泊まることも考えよう」と本人を説得、「どこに?」の問いに、「・・・・入院かな、考えておいて。」と伝える。入院に向けて市の生活保護課、主治医のいる花巻病院に連絡を取ったが、ベットに空きが無いとのことで、転落で搬送された温泉病院に行く予定を立てた。
 翌日早朝、本人から私の携帯へ、弱々しい声で「入院させて下さい。」と連絡が入った。これはまずいと急遽ヘルパー事業所に事情を話し部屋を開けるに際しての掃除や洗濯、ゴミ出しをお願いし介護タクシーを手配し、本人宅へ向かった。
 部屋に入って驚いた。布団のわずかな段差で身動きがとれないまま、一晩過ごしたらしく、トイレはおろか体も起こせない状態。何とか着替えをして介護タクシーを待つ。その間、タバコを吸おうとするのでストッ プをかけ、水分をとって、今の状況を話し合うが、タバコは唯一の楽しみでもあり、 入院となると吸えなくなるかもしれない。「一本だけね。」と折れると「わかりまし た。」と妙に神妙なので、ちょっと悲しくなった。
 病院では1時間も待ってやっと診察室にはいったが、ベットに空きがないので入院は無理と断られる。何とも腑に落ちない私。「このまま家に帰ったら寝たきりになっちゃうよ、何とかするから。」と待合室で話していると、看護婦さんが申し訳なさそうに謝ってくれたので「病院が悪いわけではないですから・・・。」と言ったものの、どこに向けていいのかわからない憤りを抱えてしまった。「いいケアマネさんについて貰ったね。」と看護婦さんは声を掛けてくれるが、八方ふさがりに変わりはない。結果、里の特養のショートステイで受け入れて貰うことになっのだが・・・。                続く



部屋の間取りを熱心に説明するピアニスト
 

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