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良子さんの里帰りと満開の春【2009.05】

グループホーム第1 西川 光子
 

 お隣のグループホーム第2では、展勝地に花見に出かけ、「料亭T」で食事をするという。「料亭T」は良子さん(仮名)の実家なので、これは是非ともと合流して出かけることにした。


 良子さんは、日頃から和服で過ごしている方だ。いざ外出となると身支度が一段と念入りで時間をかけての準備となる。そこでこの日は特に早めに外出の声かけをした。「あらそう〜今日行くってか〜」とあっさりした返事だったが、そこは久々の里帰りとあってやはり念入りの長時間の身支度をして現れた。いつもながら身に付いた着こなしと振る舞いにうっとりさせられる。
 ここ数年、11 月の誕生日の里帰りが恒例になっていて、季節がら濃い色合いの着物で出かけたのだが、今回は春なので晴れやかに、明るい色の大島つむぎにしぼりの羽織と決めてきた。やわらかい色合いと華やかさが優雅さを引き立てる。しかもその衣装をきちんと着こなしていて、着おとりが全くしない。一同その気品にひきつけられる。
 それを目聡く見定めたのは2週間前に入居されたばかりのミサ(仮名)さんだった。「あら〜おばあちゃん、ステキですこと〜。これ総しぼりですよ。とても豪華ね。さわってみていいかしら。ほらこの着物、表も裏も絹だもの。着物は裏で決まるのよね。このすそまわしもすばらしいわ。色合いも合っているし、針目も見えないでしょ。上等だわ。素晴らしい!!おばあちゃんたいしたもんだ」と絶賛だった。


 このところ利用者の方4名の入れ替わりがあり、これまでにない大きな激動を体験しているグループホームのなかで、「私が軸になる」と決めたかのように、揺るがず、動くことなくビンと過ごしてくれていた良子さんだったが、この時ばかりは、腰かけていた椅子を少しミサさんの方に近づけ「う〜ん、そうね〜」とミサさんの審美眼に目を細めていた。
 ”着物”を介して二人が感性と価値観を共有し合っているようで、その場に居合わせた私も心地良く、二人の間に入れさせてもらった。グループホームで暮らすお互いが、こうした瞬間に出会いの一歩を踏み出しているように感じて嬉しかった。
 料亭Tに到着するやいなや、良子さんは「ここ私の実家〜」と人ごみを踏み分け一番乗りで玄関へ向かい、「皆さんどうぞ」とすっかり迎える側になる。カウンタ−にいた店主さんも忙しい手を休めて出てきてくれて「あや〜来てけだったのか。奥の方に部屋とってあるがら」と良子さんの手を取り暖かい歓迎をしていただいた。奥の間は、広いガラス窓から北上川を挟んで対岸の桜を眺める花見に絶好のお部屋だった。お弁当を食べ終えると、箸袋を三度ほど指でのばし、花見の記念にと袋に日付を記して懐にそっと挟んだ。
 食事後、北上川・展勝地の桜満開の春爛漫の景色を堪能しうっとりと時間をすごしているうちに”奥州橋 桜の名所 ヨイショ・・・さ〜さあがらんせ〜”。と自然に良子さんの口から歌が聞こえてきた。そしてゆったりと振りをつけて踊った。深い世界に浸って往時の華やかな風情に酔いしれているように感じてならなかった。その雰囲気にみんなも引き込まれて宴の気分・・・。「いいね〜」と小さく声をかけると「フフ・・・」と肩をすくめ、また浸り続ける。与えられた運命と、それを歩む人生を懐かしい歌と舞に託したかのようだった。
 皆が桜の散策に出かけたあとも、私と良子さんは二人残って余韻に浸った。良子さんのこころに咲いた満開の花をひとひらたりとも散らせたくない思いで、北上川のせせらぎを背景に桜アイスをいただきながら貴重な一時を過ごさせてもらったのだった。



桜並木をバックに


これからもよろしくね


ふたりではいポーズ!
 

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