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銀河の車窓から【2009.05】

デイサービス 小田島 鮎美
 

 施設長から「送迎もあるのでよろしくお願いします」と言われ、デイサービスで働くことになった私。方向音痴の私に「送迎」という試練がのしかかった。利用者さんの家をちゃんと覚えられるだろうか、家族さんとのコミュニケーションはうまく図れるだろうか、何より利用者さんとの密室空間…しゃべることにさえドキドキして、噛み噛みだし…。ワゴン車、リフト車、マニュアル車…初めての経験で大丈夫かなぁと、最初は不安の渦だった。だが、2 ヶ月経った今、気持ちにも少し余裕が出てきて、私にとって送迎は『ここでしか味わえない特別な時間』になっている。そこにはデイサービスのホールとはまた違った世界がある。


 ソノさん(仮名)が「オレは根性ひん曲がっているからこの歳まで生きてるんだ」と言うと、ふみさん(仮名)「違うの。みんな生かされているの」と返して、ソノさんも「んだっか」と受けている。 ふみさんってすごい。なんだか深い言葉。私も、そっか生かされてるのかとふみさんの言葉に聞き入っていた。
 ソノさんとふみさん仲がいい。車内ではいつも話に花が咲く。だんなの話、息子娘の話、孫が何人ひ孫が何人…こうやって二人があーだこーだ話している空気が私は好きだ。あえて二人のあいだには割って入らず、二人の話に耳を傾けながらだまって運転している。
 ソノさんは、「オラはわがね。わがねわがね。」と遠慮深い。おやつ作りも裁縫も、みんなの作業を見ていることが多い。「2歳の時に焼けてしまったんだと。」と左手をさすりながら、病気で手も足も不自由になり、腰も曲がって…と自分のことを話す。こちらが「一緒にやろう」と誘っても「わがね。」「おりゃ馬鹿だから…」と引き気味だ。
 だけど、朝迎えに行くと「銀河のデイは楽しい。」と話してくれる。先日のマルカンドライブも、出かける前は「どこに行くの?おりゃいがね。」と気が乗らない様子だが、みんなでお昼を食べてソフトクリーム食べていっぱいおしゃべりして…帰りの車内では「楽しがったぁ。」と笑顔で、私もうれしかった。
 ソノさんは苦労を重ねて、誰よりも強く生きてきた人なんじゃないかと思う。だから、人の痛みもわかって、優しいんだろうな。


 剛さん(仮名)の朝の迎えに、15 分遅れたことがあった。剛さんには9 時10 分が基準として入っていて、遅くても早くても時間に細かい。数字がとても気にかかる人で、トイレに入ってもタイルの数を1234…と数えたり、トランプを数字の順番に並べたり、送迎で乗る車のナンバーを毎回メモしたり。15 分は大きく「今までにない時間だなー」と気になるようで何度も言い続ける。「ごめんね」を繰り返すしかない私。それをきいていたソノさんが、「そんなに言わねんだ」と言ってくれる。落ち込みぎみの私を守ろうとしてくれたソノさんの優しさを感じた。 

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