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継ぐ決意とワークステージの力【2008.12】

ワークステージ 米澤 里美
 

 農家に生まれた私だが農業を手伝ったことがない。特に中学生からはクラブ活動、大学ではアルバイトに明け暮れ、大学卒業後は韓国の留学とほとんど家にいない生活が続いた。長女の私は幼い頃から家を継ぐ立場にあることを聞かされてはきたが、「家を守る」だとか「家を引き継ぐ」などは重荷でしかなかった。特に山間地での農業に明るい未来があるとは思えず、家に残ることに対して密かな抵抗もあったように思う。そんな私が関わらずとも祖父、祖母を中心にリンゴ栽培や稲作は続けられてきた。
 留学から帰り、銀河の里に勤めて4年目。里は農業を基盤に暮らしを生きる福祉を実践しているところだ。里で農業に関わることになって、50年かけて祖父や祖母が築いてきたリンゴ畑や田んぼの偉大さに気がつくようになった。作物への気配り、天候との対話。理不尽に裏切られることもある、ひたむきな忍耐と努力、そして祈りがあって農業は築き上げられていく。そのなかに、私自身の生きている実感を取り戻させてくれるリアリティがあることを感じるようになった。
 この9月に祖母が亡くなった。5年前にアルツハイマーと診断を受け、施設や病院を転々とした。私は祖母が寝たきりになり、言葉も出なくなってもどこか祖母の凛とした存在に魅せられるところがあった。危篤の知らせを受け、駆けつけると、一度停止した心臓が持ち直し、精一杯の息をしていた。その20分後祖父と母が集中治療室に入ってきたところで祖母は逝った。まるで、みんなが揃うのを待ってくれたかのようだった。温かかった体がどんどん冷えていくのを見届けながら、祖母が強く生きて、築いてきた軌跡を思った。私は何かを受け継ぎ繋いでいかなければならないのだろう。でも何をどうやって・・・。農業で生きていくことは経済的にもかなり深刻で、兼業でやれるとも思えない。
 祖母の葬儀が終わると、リンゴの収穫と稲刈りの最盛期を迎えた。今年の作業はワークステージの力を借りての稲刈りとなった。銀河の里は6ヘクタールの稲作をしているが、今年はその他に米澤家の1.5ヘクタール、そしてワークステージ利用者で一人暮らしの真さん(仮名)宅の稲刈りもやった。
 真さん宅も米澤家の田も機械が入れない場所があって、ワークステージで手刈り軍団を結成した。管理が行き届かなかった場所は、草がぼうぼうで、ひどい所では草の中から稲を探す状況。田んぼがぬかるんで足のふくらはぎまで長靴がはまり、ぬけないで苦戦もした。全身どろんこになりながら稲を刈った。
 苦戦しながらも20人あまりの人が一つの田んぼを手で刈り取る様は、昔を知らないのに昔を見るような懐かしい光景だった。昔はこうやってみんなで協力し合って農作業をやっていたんだろうなと思った。人手不足と機械化で今はどこも一人とか二人の作業で、このような光景は見られない。苦労して刈り終わると、「やったー!」とみんなで拍手して、お互いをねぎらった。
 おかげで例年10日ほどかかった作業が3日で終わった。地域が疲弊し、離農が後を絶たない。高齢の女性が一人でコンバインを使って稲刈りをしている現状もある。そんなところに、作業の出来不出来は別にしても、大勢の若者が田に入って、活気のある稲刈りはあり得ない風景だ。この軍団に明日への希望をみる思いがした。
 祖母や祖父が切り開いてきた畑や田を、私一人では出来ないけれど、ワークステージの力を借りながら、農業や地域を元気にできたら嬉しい。
 食料自給率が40%と言われる日本。生産者の現状はますます厳しくなりつつある。その中でも条件の厳しい東北の中山間地の過疎の進む地域で、障がい者と共に農業で生きていくことを選択することは自分でも信じられないことだが、弱いものが集まることで何かがスパークして大きな力が出るかもしれない。そういうミラクルを信じて、戦い生きる事を続けていきたい。


 

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