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やっぱ、そっちかよ【2008.12】

デイサービス 中屋 なつき
 

 銀河の里に特養がオープンする来春に向けて準備が進んでいる中、現場に必須とされるリーダー研修を3日間受けてきた。最近注目されているユニットケアとはなんぞや、という内容なんだけれど、グループホーム8年の経験から見て、残念ながら新しい発見はひとつもなかった。それどころか、ユニットケアはこうあるべき!と断言し、ユニットケアそのものが目的でゴールになってしまっている感じの、押しつけ感ばかりが強く、やりたいようにやらせてよ!と思ってしまうこと多々あり。まぁ、全国的に見たら、大型施設の流れ作業的な介護がまだ主流で、利用者主体の個別ケアを大切にせにゃあかん!と頑張っている姿だと捉えれば、新しい動きとしてこういう研修が必要なのもわかるんだけど。
 でもその内容、やり方は、受講者がそれぞれに頭を使って考えていく事を許さない感じが拭えなかった。ユニットケアはこうでなければダメです、というマニュアルに当てはめ、あなたの施設ではどうですか、と○×で答えを出させる。×の項目は直ちに○になるようにしなさい、○なら○で良し、という極めて単純な思考。×なりの事情や、×だけども代わりにこういう工夫をしているといったそれぞれの特徴には注目しない。○ならば、その実態がどうであっても、それ以上の興味も関心も持とうとしない。
 こういう研修をしていたら、全国一律の、個性も何もない、誰がやってもまるで同じ施設が出来上がるだけじゃんか。それぞれの地域性や、住んでいる人の個性があって、その施設毎にカラーが出てくるから面白いんだろうに。「個別ケア」と唱える人達が個性を消す方向に必死になっている姿が、なんだか矛盾しているなぁ…と、おかしくなってしまった。
 最終日、受講生が研修を振り返って発言する時間があった。ある人が「うちの施設長は、職員も一人一人個性がある…とよく言います」と言うので、「お、いいじゃん、中にはわかっている人もやっぱりいるんだ!」と微かな希望に耳を傾けた。ところが続けたのが、 「個性がバラバラだから、ケアの内容がバラバラになってしまう。申し送りやケアプラン等をちゃんと導入して、ケアの統一を徹底することがとても重要だと、うちの施設では施設長をはじめ職員全員がそう考えています」  微かな期待はたちまち裏切られ、ガックリ…首を折って絶句した。「やっぱ、そっちかよ…」。スタッフも個性を持っていると、せっかく気付いていながら、なんでわざわざ一律にしてしまうんだろう。
 銀河の里のふたつのグループホームが、それぞれ全然違う雰囲気を醸し出しているのは、そこに居る利用者とスタッフの個性のぶつかり合いで紡いでいる日々が在るからだ。ひとつのグループホームでも8年前と今では全然違う。当然だよ、そこに居る人が違うんだもの。今ここに居る人と人との関係で、物事がなされていって、そこの暮らしが創られていく。「生きる」ということはそういうことじゃないか。なんで「生きる」を奪ってわざわざ管理にしなきゃならないんだ?
 質疑応答で「入浴拒否の強い方がいて困っています。皆さんの施設にもそういう方はいますか?また、どのように対応されていますか?」という質問が出た。それに対して、「甘い物が好きな方で、お風呂入ったら饅頭あげるからって言った」とか、「服のままお湯かけて、入ってもらったこともありました」なんて言う講師の人もいた。
 いいよ、そりゃ…。いろいろやってみるのはいんだけど、こうすればこうなる的な、便利なマニュアル紹介程度に語られ、そこに在るはずの「関係」が見えてこない。「やり方」を並べ立てたって、同じやり方が通用するわけがないのに。
 私が声をかけても「されかもな!」と拒否して絶対入らない人が、若い男性スタッフの誘いには「あんたが入れてくれんの?ありがとう」とニコニコで入浴することもある。気の合う利用者さん同士で誘い合って「おめが行くなら俺も行ってみっかな?」と入ることもある。確かに苦肉の策、まさに湯をかけたこともあったが、入浴後、「おめにこったなことまでさせて、申し訳けねぇなぁ」と服を着ながら妙にしっとりと、そんな会話が展開された。お湯をかけたこっちだって「多少無理しても関係が壊れることはない」という感触があってこそそれをやれたのだ。
 いろいろ考え、工夫をして悩み、あれもこれも試してみる、それでも今日もまた入れなかったね…等々の物語が展開していく。そのプロセスの中に、「この人と私」の関係が生まれてくる。一対一のケアには「関係」というキーワードは抜きにできないはずだ。
 そこで、里のケースを少し紹介しながら、「それぞれのケースで工夫や苦労が必要ですが、何をするにも関係性ということが重要な決めてだと思う」と発言した。すると講師を含め、会場全体がポッカ〜ン…とでもいうようにシーン…としてしまった。ここでは関係性なんて関係ないんだ。言わなきゃよかったと思ってしまう。


 大学の芸術科を出て、資格も経験もなく現場に入った8年前に感じた、いわゆる「介護」に対する違和感が、今も新鮮なまま私の中にある。新人3ヶ月目の研修で、右も左もわからない小娘が、講師の先生に食ってかかったこともあった。今にして思えば冷や汗が出るほどの「ひよっこ」だったんだろうが、想いとしては変わらない。要は「関係の中でどう生きるか」だ。申し送りやケアプランが大切なことは当然で、軽視しているわけではない。利用者やスタッフをも守る大切な事柄ではある。だけれど、書類があればそれで良しの監査や、ユニットケアの○×など、そんな単純な答えが出る仕事ではないはずだ。人間への興味関心を真摯に強く抱いているかどうかが、この仕事の核であることを大事にしていきたい。今回の研修では、人と人との関係から生み出される「生きること」については、ひとかけらも触れられていなかった。日本の福祉は、「社会に役に立たない者を問題が無いよう管理する」という概念から解放されていない、程度の低いものだとしたら残念なことだ。
 来春、新たにやって来る入居者とスタッフとなる人材も含め、どんな人々が集い、どんな関係や暮らしが生まれてくるのか、楽しみだ。人間対人間の苦労と面白さを共有できる関係づくりに、クリエイティブな感覚で臨みたいと思う。
 

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