トップページ > あまのがわ通信 > “コラ”ボレーション「重みがないね」


“コラ”ボレーション「重みがないね」【2008.12】

グループホーム第2 板垣 由紀子
 

 11月3日はコラさん(仮名)の誕生日だ。毎年この日は、里の収穫祭(今年は音楽祭)にあたる。今年は連休だったので前日2日が音楽祭。毎年自分のことはそっちのけだと、愚痴をこぼしているコラさん。3日の朝「今日は原敬記念館に連れてってもらう。」と突然の申し出。こちらとしては、13日に以前から行きたがっていた大迫記念館に、担当の美貴子氏と、私で出かける計画になっていた。今日の今日、盛岡の原敬記念館までは行けない。
 誕生日は何がほしいと聞くと、毎年、何もいらないと言う。今年も前日にそんな会話をしていたくせに、朝から鈴を鳴らしては部屋にスタッフを誰彼なく呼んで、「今日はコラの誕生日って分かってらっか?88歳米寿の祝いだよ。市役所からは何もないのか?金杯とか銀杯とかもらうんだべ。ここでも手ぬぐいの1つも作って配らないのっか?」と催促が激しい。私も一言いいたくなって、「コラさん、今日は始まったばかりだよ、何か準備していても、言われたからやったみたいじゃない。信じて待つこと出来ないの?」と言う。コラさんは「何か欲しいって言っているワケじゃない、これ去年、及川さんがくれたった。」とリボンを結んだままの靴下のプレゼントをタンスから出して見せつける。それはおととしの、しかも誕生日じゃなくクリスマスのプレゼントじゃんとむかつく私。
 そう来るなら、とことん祝ってやると、私は意地になる。紅白のまんじゅうを作り、パッケージには“祝88歳”の手書きののしを添えた。美貴子氏もプレゼントを買いに出かけ、スタッフ総出の作業で気合いも入った。夕方コラさんの部屋へ私と美貴子氏の二人で、届け行くが、コラさんはすっかり寝てしまっていた。ずれずれだがコラさん起こす。「おめでとうコラさん」「何たらや、うるせごど。」めんどくさそうに起きるコラさん。「コラさん紅白まんじゅう」と渡したのだが、それを見つめて一言、「重みがないね。」ときた。
 なにが欲しいか聞くと「いらない」と言うくせに、その日になると何もないのかと朝から騒ぐわがままなぶり。そして「重みがないね」と言う言葉・・・。
 参ったなと思いながら後で考えさせられた。コラさんが欲しかったのは、唯のプレゼントとしてのモノではなく、儀式としてのお祝いではなかったのか。米寿と言う節目の88歳。よくここまで生きたという意味や、あの世に近づいてきて、向こうにきちんと行ける節目としての祝いが必要な時期かもしれない。私たちがしようとしていたことは、そんな儀式とはほど遠い、イベントとしてのサプライズではなかったか。誕生日は、裏を返せば、またひとつ死に近づくと言うことでもある。祈りの入った儀式がない事を「重みがない」と言ったのかもしれない。
 その後、13日にはコラさんと予定通り大迫の神楽記念館に出かけて10日遅れの誕生日の祝いに変えた。朝からコラ大御神のお出かけに雲ひとつない晴天。記念館では神楽を見ながら19歳まで若返ったコラさん。重みのある祝いの儀式になったかしら。
 

あまのがわ通信一覧に戻るる

このページの上部へ


〒025-0013 岩手県花巻市幸田4−116−1
TEL:0198-32-1788 FAX:0198-32-1757
HP:http://www.ginganosato.com/
E-mail:l: