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"オカイコ"サン 〜銀河セミナー再開第1回〜【2008.11】

グループホーム第1 前川 紗智子
 

 先日、夕食のテレビで、日本産の絹だけを使った着物作りの取り組みを報じていた。外国産の絹に頼っている着物業界の中、京都の呉服屋さんが、日本に残っている数少ない養蚕農家を一軒一軒まわって提携してもらい、純日本産の着物をつくりあげたというのだ。すると60代後半のパートの伊藤さんが「おれどごでもやったったぁなぁ〜。嫁に来たばっかりで、あいや気持ぢ悪!ど思ったったどもよぅ。」と語りだし、そこから食卓はお蚕さんの話になった。私も未知の世界の話に興味津々に、食事の手を止めて聞き入った。糸を吹けるようになった蚕は目で見てわかるらしく、それをひとつひとつ拾ってあつめ、さなぎから絹を取ったのだそうだ。
 そんなさなぎの話題が数日後の「銀河セミナー」で主題になろうとは・・・その時はもちろん知る良しも無かったのだが・・・。


 「銀河セミナー」は、銀河の里で定期的に行なわれている研修会だ。このセミナーは、私が里に就職した年2006年から始まったもので、途中休止もありながら、銀河の里という、ひとつの運動体の原動力を生み出すために欠かせない場として今回また再開した。“運動体としての原動力”の創出にこんなに力を注いでいる職場って無いんじゃないのかなと思う。銀河の里は、管理システム的に、マニュアルで回している施設とはちょっと違う。もちろん全く管理が無いわけでないが、管理に支配されてはいない。リスクマネジメントが重要視される世の中で、危険かもしれないが、里では管理の視点のそれとは「違うもの」で里全体を守っていこうとしている。セミナーでは、その「違うもの」を確認したり育てたりしているんだと思う。
 掲げられるテーマは認知症や障害者対策のような内容ではなく、音楽、演劇、文楽、能、太鼓、など・・・芸術・美術に関することや、心理学、哲学関連のものが多い。どれも不思議と私たちの仕事に直接リンクしてくるのでおもしろい。そして最終的には、認知症・障害者ということに人間存在の視点から迫ってくるからすごい。
 逆にいえば、むしろ、里で働いているからこそ、そういった生命の表現である芸術の味わいを深く味わい楽しめるのだろう。
 そうした味わいを得るたびに、私たちの仕事は単にお世話や、問題をどう扱うかではなく、人が出会って、関わっていく中で、人間、生、死、人生そのものと向き合い、関わりながら変容をしていくのだということを認識させられる。特殊な分野に限定されるものなのではなく、人間全体に、人生全体に、普遍的に流れているものを、まさに体感、実践していこうとしているのが銀河の里で、認知症や障害者の世界は、そうした全体に開かれたひとつの窓口なんだということを思わされる。そして私自身も単なる介護者としてではなく、全体のスペクトルの中にいる今の自分自身を見つめさせられる。
 少し硬くなってしまったが、セミナーを経ることで、私の中に、全体とつながっている安心感と知的好奇心がよみがえり、さらに発見的な感覚で、里での日々が続いていく事になる。
 10月28日の銀河セミナーは、休止を経て、仕切りなおしの第1回目、現状を踏まえて、銀河の里が出来上がる前から暖められてきた里の原点を振り返る会となった。
 現代のシステム化された社会の中では、関わりを得ずとも物事が進んでいくので、社会も人も成熟しにくい現状がある。銀河の里の若い世代もご多分に漏れず大人に成り切れず苦しんでいる。対人援助の仕事の現場であり、関わりがあり、やりとりがあるその中であっても、関わることにさえ壁がある。そんな、没入したままの私たちが、どうやって大人になるのか、そこに銀河の里はどう存在するのか・・・。
 没入したまま成熟を休止している私たちを、理事長は“さなぎ”と表現した。先日の食卓でのおかいこさんの話が蘇る。不気味で、角が立っているさなぎ。それを経て成虫になるので、さなぎの中には成熟への可能性が秘められている。だが、繭はぐつぐつ、釜で煮上げて糸をとる。蝶になれるのか、糸にされるのか・・・。当事者としては、聞いていて本当に心苦しい。もう、育たなかったら、煮てくれていいから糸を取ってくれ。それだって立派な再生。でも、ちゃんとした糸だって取れないんじゃないかと心配にもなる・・・。セミナーの翌日も、スタッフと、「まださなぎにすらなっていないかも」などと話になった。
 大人ということを考えだすと、正直、頭が痛くなってしまう。むしろ、大人になれるか否かということに悩むよりも、まず足元を見て今をどう生きるのかに専念したほうがよさそうだ。その先に成熟があることを願う。過渡期、もしくはこのどっちつかずの中間領域の今をどう生きるのか。そして、可能性を信じて待っていてくれる里と、私たちを没入からいつも引っぱり上げてくれる利用者。里で生きていることのありがたさを今回のセミナーで再確認しながら、ぐるぐるずいままではあるが頑張っていこうと思うのだった。
 

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