トップページ > あまのがわ通信 > 餅米の手刈り日和


餅米の手刈り日和【2008.10】

デイサービス 三浦 由美子
 

 今年四月、新人として就職したとたん、餅米の田んぼの担当になった。右も左も解らないまま、トラクターの使い方を教えてもらい、春の田起こし、代掻き、田植えとこなし、その後の水管理などやってきた。みんなで手植えの田植えをしたのは5月22日だったが、何が何だかわからないまま、あっという間に稲刈りになった感じがする。


 9月30日、実った餅米の手刈りを、里全体でおこなった。天気は完璧な秋晴れで稲刈りに持ってこいの天気となった。
 デイサービスは、稲刈り目当てか、18名利用という過去最高の人数になり朝から慌ただしかった。歩きと車の二手に分かれ、私は歩きグループでいざ田んぼへ向かう。あまりの天気の良さからか、普段は控えめな ナツ子さん(仮名)が自分から「こうやって外歩くのもいいもんだね。」とフフっと笑いながら話しかけてくれる。
 ミツさん(仮名)は家から自分の鎌を持ってくるほど楽しみにしてくれ、ナツ子さんと共に帽子に割烹着とすっかり稲刈りルック。「倒れた所は手でザスザスと刈らないとね。」と勇む ミツさんに、「おめさんザスザスと刈れるってか。」ナツ子さんが言う。普段のおしとやかさと違った一面をチラッと見せてくれる。
 田んぼに着くと、車も到着してんやわんやになるが、ふとみると田のなかではミツさん達がすでに田に溶け込んで作業をしていた。


 良夫さん(仮名)も農家の人。稲刈りの様子をじっと座って見ていたが、束ねるのを頼まれると嬉しそうな表情になった。良夫さんの手は長年の経験で自然と動く。親指を使い上手く中に稲を入れ固定している。束ねるだけでは物足りない様子なので、「結ぶのと刈るのどっちがいいですか?」と聞くと「どっちも。」「じゃあ刈る方をしませんか?」と鎌を渡すと突然拳に力が入り鎌をぶんぶんと振るので、「やっぱり結ぶのをしましょう。」と束ねに戻る。でも物足りなさはあるので、しばらくしてさりげなく鎌を渡すと、待ってましたといわんばかりに力強く稲を刈っていく。リズミカルな見事な刈りかたに目を見張った。 良夫さんにとっては刈って、束ねて、両方で稲刈りなんだろうな。


 キクジさん(仮名)は足腰も弱っているので、見学の側かと思っていたのだが、田んぼを目の前にすると体が自然と動いてしまうようで、スタッフの藤井さんが一緒に稲刈りをした。「なんだ?こうか?」と手元は危ういものの、いい表情になる。座って休んでもすぐに立ち上がり稲に近づいていく。今度は私と一緒に稲を刈る。「こうだな。あれ?こうか?」とおぼつかないながらも、必死だ。 キクジさんにとって稲刈りは大事なことなんだ。


 チカさん(仮名)は「大正7年生まれ。でも80から数えないことにしているの。」と話すお茶目な方だが、この日はいつもと違った。「面白そうねえ。面白そうねえ。」と稲刈りをにこにこと眺めていたが、突然「私もやりたい。」と鎌を持って、表情が真剣になる。そして手慣れた手つきで稲を刈ると、サッと束ねて行く。私はあっけにとられながら、結び方を教えてもらおうとするが、なかなかできない。簡単そうにやっているのにできないことを疑問に思いながら、 チカさんの手早い作業に見入っていた。チカさんの真剣ながらも明るい姿は、どこか力みすぎている私に、もっと自分らしく楽しめと教えてくれているような気がした。


 マイ鎌を持ってきたミツさんは、どんどん刈り続けていた。束ねかたを聞いたが、チカさんとは違うやり方だった。それぞれ流儀があるのだ。我々の世代は自由なようで流儀を持っていない一律世代だが、一律のように見えて高齢者はしっかりと流儀を持っている。
 ミツさんは、活き活きとした表情で根気よく何度も教えてくれる。畑仕事が大好きでいつもデイには草取りをするという気持ちで来てくれている。今日の稲刈りは、そんな ミツさんを外すことはできなかった。田んぼでは作業を優しく丁寧に教えてくれる先生であった。いつも「私は、畑しかしてこなかったけど草を取るのは得意だよ。」話し「早く畑に行きたいなあ。」と口にする ミツさんの稲刈り作業の姿を見ながら、「体に染み込む」という言葉がわかるような気がした。生きることと作業と喜びが実感として繋がり体に染みこんだとすれば、自分たちはそういう実感からほど遠い。それは「生きる」ということからも遠いことかもしれないとなるとどうすればいいんだろう。
 今年、田植えから稲刈りまでの一連の流れを経験したが、果たして私は稲と共に成長できているのだろうかと、すくすく成長する稲を見て思った事も度々だった。時には夜中の水見や草取りなど、曜日や時間に関係ない米作りの作業に、デイサービスの仕事と関係あるのだろうかと迷いもあったが、次第に頭を下げる稲穂を見ながら稲に親近感が沸いた。みんなで稲刈りができて、嬉しかったし、ほっとした。これから美味しいお餅を味わいたいと思う。
 

あまのがわ通信一覧に戻る

このページの上部へ


〒025-0013 岩手県花巻市幸田4−116−1
TEL:0198-32-1788 FAX:0198-32-1757
HP:http://www.ginganosato.com/
E-mail:l: