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「崖の上のポニョ」と「プリン展」の一日 【2008.09】

ワークステージ 米澤 里美
 

 「崖の上のポニョ」がメディアで騒がれている最中、ワークステージのヨシコさん(仮名)もポニョ一色になっていた。昼休み、いつものごとくはにかみつつスタッフに「崖の上のポニョ」のチラシを持ってきてポニョを撫でている。そして、「ポ〜ニョ、ポ〜ニョ♪」と歌う。毎日なので「一緒にポニョ見に行く?」と誘って、お盆休みに二人で盛岡へ出かけた。
 休日に盛岡まで出かけるのは初めてで、お互い緊張していたが、車中の1時間、ポニョの音楽を聴きながら行った。「ポ〜ニョ、ポ〜ニョ♪」とリズムはいいのだが、音程が全く外れた歌をヨシコさんが繰り返す。「ポ〜ニョ、ポ〜ニョ♪」と何十回も聴いて頭がふらふらになりながら盛岡につく。
 最近出来た新しい映画館に行ったが、時間が早いからか空いていた。ヨシコさんは、大勢の人だかりや、騒がしい所が苦手で、パニックを起こして動けなくなり、泣き出してしまう。映画を見るにもそれが一番の心配だったのでホッとしてチケットを買った。


 時間があったので、盛岡の街を散策。スターバックスで朝食をとり、岩手公園の池を見て、CD店に寄った。ヨシコさんはポニョのCDを買ったがその時初めて笑った。
 ところが上映時間10分前に映画館に行くと、人だかりの山になっていた。ヨシコさんはギョッとして動けなくなる。ここでパニくっているわけにはいかないと、手を引っ張って入り口を突破。ポップコーンをジュースを買って準備し、振り返るとヨシコさんがいない。ずーっと後ろの所で立ちすくんで涙目になっている。「なんだっ?!」とみると、そこに同時上映中の「カンフーパンダ」のでかいのが立っているではないか。そうだヨシコさんは大きな動物が苦手だった!やばい、とっさに私は手で目隠しして、抱き上げるようにしてパンダの前を通過した。このまま勢いで座席まで行きたいところ!!しかし、やっぱり人気映画。満席状態の場内を見て、ヨシコさんは入り口で動けなくなり泣き出してしまった。私は、先に席に行ってポップコーンを置いて引き返し、彼女の荷物をもって、ひきずるようにして席まで突進した。こうしてヨシコさんは息を荒くしながら何とか席にはまった。


 それでも映画が始まったら、二人とも映画の世界にどっぷりとはまった。宮崎監督は「少年と少女、愛と責任、海と生命、これ等初源に属するものをためらわずに描いて、神経症と不安の時代に立ち向かおうというものである。」と書いている。おもしろいのは、この物語は男性が強い力を持つ存在として描かれていない点である。男性はバカと言われるか、オロオロと慌てるかである。渇いた世の中を変えるのは、子供達の純粋な目で真実を見抜く力と、全てを強く優しく包み込む女性の潤いであるとの思いにふけった。
 見終わった後、ヨシコさんは、「お父さん(フジモト)怖かったけど、ポニョ人間になれてよかったね、お母さん、やさしくてしゅき。」と語ってくれた。


 映画を見終わり、せっかく盛岡に来たのだからと開催中の、プリン同盟の展示会にも立ち寄る。入り口の看板に「芸術はぷるぷるだっ!」と書かれている。プリン同盟はプリンとアートに関わるグループで年に一度、プリンをモチーフにした作品のみの美術展「プリン展」を開いている。
 会場は20人弱の客席でコーヒーの香りがとてもいい喫茶店。店に入った途端、ヨシコさんは8割方埋まったお客さんにびっくり。ギョッとたじろぎ、泣きそうになる。境界さえ突破してしまえば大丈夫との経験則でここも勢いで入って座ってしまう。オーダーを入れたあたりには慣れて、辺りを見回しながら、ニヤーっとわらった。
 ぷうりん(風鈴)、プリンネクタイ、プリガエル、マープリングはがき(マーブル模様)などなど、なんでもプリンに掛けた作品が並んでいる。「崖の上のプリンバッヂ」もあった。このカチコチの社会を揺り動かし崩すのが目的のようなプリン同盟の作品に、ぷるぷると頭が柔らかくなっていく。肩の力が抜けて心がほどけていく感覚にヨシコさんも思わずニマーとなったのだ。


 ぷるぷるに柔らかくなった頭と心で、大きな声でまたポニョを歌いながら帰ってきた。その後、ヨシコさんはますますポニョ一色で、スケッチブック80ページにポニョの絵を描いてくれた。昼休みには踊り付きでポニョの歌だ。
 彼女のポニョ好にどこか私は励まされ、勇気をもらっている。プリン同盟の作品も同じ感じで、しらけた社会を潤す大事な何かがそこにはあるような気がする。 


 

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