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スパークリングスパーク(最終回)【2008.07】

宮澤 健
 

 スパークリングスパークはまさにこうしたロダンの仕事の延長線上にあったのではないかと妄想が広がる。このシンポジュームの女性登壇者の面々は、男性原理のまっただ中で、男性社会を勝ち抜いて生きているいわば猛者達だ。しかし彼女らはその奥に、女性性の輝きを秘め、女性性の開花を体現している。これはそのまま次の時代のパラダイムだと思う。役所をはじめ地域まで現代社会のあらゆる場が、男社会の堅苦しさや、重苦しさにやられてエロスの息吹を完全に失いかけている。
 そこでいくら集まって会議を繰り返しても形式に流れ、表面的なつまらない内容で終わるしかない。この会では「障害者自立支援」といったテーマを、スパークリングワインを飲みながら、ほろ酔い加減で、好き放題、言い合い、しかも芯はしっかりして、たがもゆるまず羽目もはずさず、本質に迫る。ちょっとぐらいズレたってびくともしない。深い奥行きと広い統合力と多少のけん制。綺麗事より現実感覚。まさに女性性の本領発揮ではなかったか。21世紀を超える次代のパラダイムの顕現がこの会の本質的な醍醐味であったはずだ。参加者がそれを体感したことは大きな意味があったと思う。
 かつてアメリカのウーマンリブの戦士が、男との同権を掲げ、男の占めていた地位を占領してみたら、なんとくだらないことを男達はやっていたんだとバカらしくなったという話がある。今回のシンポジスト、女性4名の活躍と発言は、日本の女性として、次代のパラダイムを体現し、障害者が社会に進出する際の器として、重要なモデルであることを示すことがこのシンポジュームの根底の目的であった。そこに気がついた人は少なかったかもしれない。しかし、参加者が無意識的であれ体のどこかにそういう新しい風を感じたとすれば、それぞれの生き方のなかで生かされる時が来るかもしれない。
 しかし時代は男性原理の悪弊の上に悪弊を積み上げ、悪循環を起こし、硬くて脆弱な社会を先鋭化させつつあることは確かだ。その裏で、子どもや若者への無意識的な圧力が高まり、彼らは個性を発揮するどころか孤立の穴に落ち込み、生きるリアリティを喪失する危機的状態に追いやられつつある。リストカットなどの自傷行為や、近年頻発する無差別殺人やなどには、通底する問題があり、そうした内閉された圧力が噴出暴走しているように思われる。今、我々の社会は、子どもや若者に、人間としての他者や自分を消去することをあらゆる機会に教育強化し続けてしまっている。


 福祉の現場にもそうした人間消失の波は怒濤のように押し寄せ、現実にほとんど飲み込まれてしまっている。人と人の触れあいと関係性の原点である介護や育児が、家庭から切り離され、社会的サービスとして提供されることによって、個から離れ、社会化されたことで、権力から管理されることになった。そのなかで本来人間的な内発的行為であるはずの関わりや関係性が、マニュアル化され、監査や、第三者評価、情報公開といった官僚的価値基準一辺倒に管理、支配され人間の生きた脈動が消滅してしまう。
 監査は権力行使だから致し方ないにせよ、第三者評価、情報公開事業が毎年非人間性を先鋭化させていく傾向にあるのは実に恐ろしいことだ。生身の人間が、しかも老いや障害や病といった重要なテーマを抱えている人に、最も人間的な関係が必要とされる福祉現場において、調査員はそんなものには一切触れようとはしない。
 福祉現場は深いテーマを持った人間の集まりだ。それに関わり向かおうとする真摯なスタッフの志もある。それらの出会いはまさに人間の生きる場を創り出す可能性を秘めている。その神聖な場において一切人間を見ようとしないのは甚だしい人間抹殺と冒涜を感じる。まっとうに人間と向き合おうとするスタッフをしっかりと見つめ、支え、励みになるようなまなざしが最も大切なはずだが、それは全く抜け落ち冷徹な「人間は見ません。書類だけ見ます」という態度では真摯なスタッフほど傷つく。こんなことを繰り返えせば若いスタッフは書類をそろえれば人間は見なくていい、実に楽だ、と簡単に教化される。
 社会全体が障害者のテーマや人生に同行する姿勢を、ことごとく切り刻み、表面的な管理と支配に流れる空気が満ちている。近代の夜明け時代のフランスのバルザックに体現された男性原理への希望や夢は消え、現代では醜く、激しい男性原理の燃えかすになった。ロダンのバルザック像が、近代の夢と希望の裏におぞましい醜さも見抜いていたからこそ、当時の社会からの強い反発を受けたに違いない。
 近代文明の恩恵に預かりきった現代、そうした抵抗や反発はロダンの時代の比ではないだろう。しかしその抵抗に耐えて、障害や病、老いといった人間の根源的テーマから存在の本質に迫る生き方を探らねばならない。それには女性性の回復は必須だ。エロスの回復復権とも言いたいが具体的にはこれを機会に考えていきたい。そうした思索を深める上で、現実の社会で契約、書類、効率、ロゴスなどを駆使して戦い抜き、同時に豊かなエロスを息吹かせて輝く4女史の姿は大いに勇気づけられた。


 最後にスパークリングスパークに手弁当で御登壇いただいた佐藤倫子弁護士、石鳥谷中の滝田充子先生、カナンの園の菅生明美さん、NHK元解説委員の小宮恵美子さんの4先生方に感謝申し上げます。一年余り「悠和の杜」を応援してくださった皆様、現場の仕事を終えて店にかけつけ応援してくれた里のスタッフにお礼申し上げます。ありがとうございました。(終わり)
 

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